◆うんとあまえて、あまやかす
久々の休日、綱吉はベッドの上で何をするでもなく惰眠を貪っていた。
睡眠自体も久しぶりのような気がして、起きては眠り、幾度となく夢と現実の世界を行き来している。日が高い時間も時たま、ごろん、と寝返りをうつだけで、実に間抜けた顔で幸せそうに眠っている。
ふわり、開けていた窓から、甘い桜の花びらの香りと共に一人の男が長い三つ編みを揺らしながら部屋へ降り立った。
男はベッドで寝ている標的の間抜けた顔に、ふわりと柔らかく微笑む。
「――沢田綱吉」
耳元で囁けば、
ぱちり。
綱吉は既に4度繰り返された夢から目覚めて、間抜けた声を上げた。
「ふおっ!?…って、風…?」
「おはようございます」
長い三つ編みを揺らしながら、優しく微笑み綱吉の隣に腰かけると、寝癖が酷いがふわふわとした濃い琥珀色をしたその髪に触れ撫でる。
「おはよう、ございます」
俺もう24なんだけどなぁ。
まるで子供をあまやかすような行為に、恥ずかしくなる。
「随分と寝てたようですね、凄い寝癖だ」
上半身だけ起き上がった綱吉の髪を見て、風は笑う。綱吉は見られたくなかったと困ったように眉を寄せて、手櫛で(癖が強すぎて意味が無いが)髪を整える。
「連絡くれれば、迎えに行ったのに…」
「せっかくの休みを邪魔するなんて野暮な事しませんよ」
「今したじゃないか…」
綱吉はむうっと口を尖らせる。
無自覚なのか、わざとなのか、その子供のような仕草にたまらなく愛しくなり、風は綱吉の腕を引っ張った。
「うわっ」
額に軽い衝撃を受けて、風の膝に倒れ込んだ綱吉は、仰向けになって風を睨む。
何するんだよ、と口を尖らせながら言う綱吉に、微笑みかけながら再度髪を撫でる。
「いえ、可愛いなぁと思いまして」
「…俺、もう24なんだけど」
「貴方に歳なんて関係無いですよ」
小さな子供をあやすような、はたまた猫をあやすような、一定の速さで撫でるその暖かな手が気持ちよくて、あんなに寝たのにまた睡魔が襲ってくる。
「なんか、また眠くなってきた…」
「せっかくのお休みなんですから、私は少しぐらい待ちますよ」
どこまでも優しい風に、甘えてしまいそうになる。しかし、せっかく会いに来てくれたのだから、寝るのは失礼だし、何より寝てる時間が勿体無い。重くなってくる瞼をこすると、その手を止められる。
「んー…、でも、せっかくふぉんが…きてくれたんだから」
「私の事は気になさらず、寝て良いですよ」
でも、でも、と言ってると、額に唇が降りてきた。
「では、こうしましょう…――」
そのまま手で目を隠されて、耳元でそっと囁かれた。
「―――おやすみなさい」
再度額に唇を落とすと、そこには静かな寝息があった。
うんとあまえて、あまやかす
(――起きたら、私にうんと甘えさせて下さいね。)
甘々を目指したけれど見事に撃沈\(^o^)/
しかし、当サイトにおいては稀に見る甘さだ。
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