遠い記憶の断片(Gプリ)
※捏造妄想どっさりです。



 町はずれの小さな家の窓から少年が外を眺めている。金色のフワフワした髪が穏やかな風に揺れ、少年は眠気と闘いながら隣の家との間に見える空を見上げていた。
「…綺麗な青だ」
 こうしてゆっくりできるのもあと少し。夕食の準備をしなくてはいけない時間までの僅かな休息の時に少年は大抵何もせずに空を見上げて過ごした。
 そろそろ洗濯物を取り込んで夕食の材料を調達しに出なければ、そう思いながらも穏やかな風が眠りへと誘い瞼が重く感じる。視界が闇に染まる直前に玄関の扉が勢いよく開いた。
「買い物、行くんだろ?連れてけ」
「…声、でかい」
 窓枠に頭を乗せて眠りかけていた少年は閉じかけていた瞳を無理やり開けて耳をふさぐ。
 玄関から飛び込んできた銀髪の少年は勝手知ったる人の家で遠慮もなく金髪の少年ージョットの腕を加減無く引っ張った。
「痛い」
「なぁ、行こう。何作るんだ?」
「…肉、食べたいな」
「うん、俺も食べたい」
 腕をひかれ仕方なく頭を起こし眠気の残る目を擦りながら銀髪の少年にひかれて立ちあがる。窓を閉め、庭にはためく洗濯物をベッドへ放り、2人の少年は市場へと出かけて行った。

 財布の事情で肉は買えなかったけれど、2人は4人分の食材を何とか手に入れて帰宅した。すでに日は傾いて辺りは夕日で赤くなっている。誰もいない家の中は寒々としていて、まるで自分の知らない場所のように感じた。
 ジョットは慣れた手つきで火をおこして部屋を暖め、日が落ちないうちにと夕飯の支度を始めた。銀髪の少年も隣で手伝おうとジョットの背中を追いかける。
「これ、洗って」
「おう」
 2人はいつものように並んで食事の支度をし、2人で食卓に着いた。

 ジョットの母親は昼間に工場、夜は酒場で料理を作っていた。朝はゆっくり出ていくが、夜の帰りは日付の変わるころだ。だからいつもジョットは1人で家事をこなしている。母親が働いているのは自分のためだとよくわかっていたから、黙々とできることをこなしていた。
 銀髪の少年の母親は、北の国のどこかの王の妻だったらしい。次期国王の座をめぐって4人目の妻だった母親は少年の命を守るために国を出てイタリアへと逃げてきた。元々貴族の出ではない母親はジョットの母親の紹介で同じ仕事をし、少年と2人生きていくことを決めた。
 ジョットが2歳になった頃にまだ1歳になる前の少年を抱えて母親は隣の小屋のような家へとやってきた。小さな庭が間にあって、互いに母子家庭という事もあってどちらからともなく、気がつけば常に一緒に過ごしていた。
 お金は無かったから毎日空腹だったし、着るものも毎日同じだった。家事をこなし、いつも2人で少年の母親が王家を出るときに持ってきた書物を少しずつ読み進めていた。外国の物語や歴史の本を理解するのには何年もかかった。
 しかし心はとても穏やかで、空を見上げて昼寝ができるような、幸せな時間だった。



 バルコニーから夜空を見上げて微笑みを漏らす。
(…あの家は、もう無いだろうか)
 ずいぶんとあの場所を訪れていない。母親のいないあの場所に耐えられなくて出てきてしまったけれど、今では優しい思い出ばかりのあの場所が酷く恋しい。
「おい、1人で出るな」
「お前がいるじゃないか」
 バスルームから出てきたばかりの青年は濡れたままの髪を拭いながらバルコニーに1人立つジョットを背後から抱き締める。
「何かあったらどうすんだ」
 真夜中のバルコニーなんて無防備な場所でマフィアのボスがぼんやりと夜空を眺めているなんて、と続けた青年にジョットは溜息交じりに背中の体温に身を委ねる。
「そのくらいの警戒はしている。お前は過保護過ぎるんだ」
 つい先日そのことで諜報部の彼に
『君の飼い犬は番犬としては有能みたいだけど、ペットとしては鳴き過ぎだ。煩い』
 と嘲笑を浮かべて言われたのを思い出す。
「お前がゆるいんだ」
「風邪ひくぞ。中に入ろう」
 青年の腕の中で振り返り、少し見上げる位置の唇にくちづける。濡れた髪が頬を撫でひやりとした感触が早くなる心臓を鎮めてくれるような気がした。
 腰にゆるくまわされていた青年の腕は振り返ったジョットの背中へとあがって力を込め、触れるだけだった唇を強く吸い上げた。
「…いいのか?」
「ん……したい」
 ジョットの腕も青年の背中へとまわり互いの背を縋るように抱きしめる。どこもかしこも熱を発しているような錯覚を起こして息が上がる。
「なぁ…」
 キングサイズのベッドに横たわったジョットは自分のシャツのボタンをはずしている青年に甘えるような声をかけて視線を向けさせる。胸元にキスを振らせていた青年は顔をあげてジョットと視線を合わせて次の言葉を待った。
「今日は……名を呼んでも、いいか?」
 青年の肩が動揺で揺れた。愛おしげに見つめていた瞳が見開かれてゆらいだ。
「………今日、だけだ」
「あぁ。今日だけ…」
 明日からはもうこうして触れ合う事も困難になるだろう。もしかしたらもう2度と、会う事も叶わないかもしれない。ならばせめて、本当の名を呼びたい。ジョットの純粋な願いは青年の心を動かした。
 ランプの光が揺れるベッドの中で2人は互いの肌へ手を伸ばし、欲望を含んだ声を隠すことなく漏らして抱き合った。
 相手の名を呼びながら、相手の背中に腕を回す。
「ジョット…っ」
「…     」
 今は記号の名でしか呼ばせてくれない幼馴染で男前な誰よりも大切な人の本当の名を呼びながら、ジョットは躊躇いなく欲望をはきだした。



 眠るジョットを残して青年は真っ暗な寝室を音もなく出て行った。日の入りまであろ1時間、集まりつつあった守護者のもとへビロードの絨毯の上を大股で進んで行く。
「ランポウは出たか」
「予定通り進んでいます」
 地下へと下りる階段で合流した部下に状況を確認し頭の中では2つ3つ先のことを考える。
「Dが動くか…」
 ジョットは信用しきっていたが、青年はDの名を持つ男を信用していない。動かなかった場合、最悪裏切った時の事まで考えながら最終確認を進めていく。
「さぁ…ジョットを起こしに行くか」
 日の登りきった頃に寝室へと戻りながら青年は嫌な予感に眉間の皺を深くしていた。早く、最愛の人の顔を見て安心したいと思いながら寝室の扉を少し乱暴にたたく。
「ジョット、入るぜ」
 返事を待たずに中へ入ればベッドは空だった。ぞくりと、悪寒が背中を走る。
「…ジョ、ット?」
 バスルームからは人の気配がない。バルコニーへ恐る恐る近づけばカーテンがふわりとなびく。
「すまない、朝日が綺麗で見とれていた」
 カーテンの向こうから聞きなれた声がしてようやく全身の緊張を解く。暢気な台詞に眉間の皺は消えないまま、バルコニーへ出ればジョットが寝巻のまま空を見上げていた。
「…心臓に悪い」
「だからすまないと言った。雲一つ無い青空なんて久しぶりに見た」
 声からは感情が抜け落ちていた。これから起きるであろう血生臭い戦いを思えば仕方のないことだけれど、青年はさっきまでの緊張とは別の強張りが金縛りのように全身を拘束する。辛うじて動く右手でジョットの金髪を優しく梳いた。
「……大丈夫。うまくいく」
 青年の言葉にジョットはゆるゆると体を起こして部屋へと戻っていく。寝巻を無造作に脱ぎ落とし、青年が素早く用意したシャツに腕を通す。肌に馴染んだ正装に身を包んだジョットは右手を青年に差し出した。
「行こう」
 その右手の甲に躊躇い無くくちづけ中指の指輪から指先へと唇を滑らせる。
 2人は互いの瞳に揺らめく覚悟の炎を確認し、あとは無言で部屋を出て行った。






※ ぼんやり思うままに書いてみた。ナックル、雨月の名前を出せなくて残念…まぁ他の3人も名前しか出てないけど。
 Gには本名があって、元王族だからボンゴレ創設時に名前を捨てたという設定。「ジョットのGをくれ。今日から俺は、あんたの、あんただけの右腕Gだ」とかゆってればいいよ!(妄想逞しい)
※ 初代編始まる前に書いたから色々滅茶苦茶です。

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