宣戦布告(鮫山2214)
※大前提:14×32(山鮫)で初体験済32受鮫が武の童貞欲しくて乗っかって強奪。



 見慣れた日本家屋を見上げてつぶやいた。
「…帰ってきたんだな」
 空を見渡して太陽の高さと方角で今が夕方だと知る。
 あの日の自分は何をしていただろうか、と武は記憶を辿ってみるがいまいち定かで無い。覚えているのは綱吉と獄寺がそろって学校に来なくてとても寂しかったこと。つい先日までボンゴレリングをめぐった戦いを繰り広げていたのでてっきり怪我が悪化したのかと思った。
 どうやら飛ばされた場所に戻ったわけではない事だけは判った。
 1か月近く10年後(正確には9年と10カ月後)に飛ばされたせいで我が家が酷く懐かしい。何より、あの世界で失った大切な人がこの中にいるはずだ。早く確かめたいと思うのに鼓動が勝手に速くなり足がすくむ。少しだけ指先が震えていた。
「…大丈夫」
 勢いをつけてながらも引き戸を静かに開ければ客は1組しかいなかった。カウンターの奥からは聞きなれた声がかけられた。
「おう、おかえり」
「た、だいま」
 短いやりとりだけで早くなった鼓動が耳鳴りを起こしたような気がした。鼻の奥がつんとして、目頭が熱くなるのが止められない。
「どうした」
 店の入り口から入ってくる時は自分に用件がある時くらいしか無い。でなければ店の手伝いをする時だ。
「あ、えっと…なんか手伝うことあるか?」
「いや、今は大丈夫だ。宿題あんならやっとけ」
「あはは」
 ごまかしたのは宿題では無くて、笑っていないと涙をこらえきれなかった。



 翌日は日曜で自主練習へと出かけるために玄関を出るとそこにはこの1カ月でよく見知った、しかし当人ではない人が立っていた。
「え?す、スクアーロ?なんで?」
 数日前に死闘を繰り広げ、未だに包帯が取れていないスクアーロがそこに立っていた。ヴァリアーの制服ではなく、黒いパーカー姿は10年後の彼と重なって見えた。
「………てめぇ、ちょっと付き合え」
「あぁいいけど」
 機嫌の悪そうな声でそう言ったきり、無言で武の前を歩いていく。どうやら並盛中に向かっているらしい。休日に勝手に入れば風紀委員に噛み殺されると思いつつ、ばれなければいいか、と武は能天気に校門をくぐった。
 南棟の裏手でスクアーロが足を止めて武の方に向き直った。
「どうしたんだ?」
「…………それが原型のボンゴレリングか」
 武の全身を不躾に睨みつけ、首にかかった指輪を見つけて問いかける。思いがけないことを聞かれて武は目を丸くする。
「え…なんでこれ知って…」
「10年後で起きたこと、てめぇらがそこで何をしたのか…10年後の俺の記憶が頭ん中に流れ込んできやがった」
「は…ぁ?」
 いまいちスクアーロの言っている意味がわからなかった武は首を傾げて眉を下げる。その仕草に気の短いスクアーロがブチ切れた。
「だから!未来でてめぇが何してきたか、わかってるっつってんだ!」
「……え、それって」
 白蘭の率いるミルフィオーレとの戦いを知っているということか。
「何それ、すっげぇな。どうなってんだ?」
「俺が知るかぁ!って、そうじゃねぇ!戦ったことじゃなくて…」
 続きを言いよどみ、スクアーロは視線を泳がせ言葉を探しているようだ。急に静かになったスクアーロを見ながら武は別のことを考える。
(…こっちのスクアーロも綺麗だなぁ)
 10年後で会ったスクアーロはこちら以上に強かったし、それだけでなく自分のことをよく知っていた。文句を言いながらも修行をつけてくれて、戦い方以外のことも教えてくれた。それを思い出すと武の頬が僅かに赤くなる。
 赤くなった武に言い淀んでいたスクアーロが逆に青ざめる。
「…う”ぉおおい、刀小僧……」
「え、あ、なに?」
「だから、10年後の俺と、お前が…何シタかも、全部…」
「………………え?」
 苦虫を噛み潰したような顔でスクアーロが忌々しげに言い放つと武はポカンと口を開けて呆然とし、理解するのと同時に真っ赤になった。しかし、目の前のスクアーロが青ざめていることで熱が急激に冷めていく。この時代のスクアーロは自分との関係を望んでいないと言われているようで怖くなった。
「…そ、っか」
「てめぇ、なんで簡単に足開きやがったぁ!」
 血管の切れそうな声で問い詰める相手に武は怖くなっていたのも忘れてカチンときた。
「足開いたとか言うなよ!スクアーロからキスしてきて、足開いたのもスクアーロだし」
「な、何ぃ!」
「だいたい、俺のことガキだとか言っときながら大人の俺の代わりにあんなことしたの、そっちじゃんか!」
 言いながら武は悔しさが湧きあがってきた。
 別れる時、10年後のスクアーロは24歳の山本武が帰ってくるのを楽しみにしている風だった。それがとても切なかった。自分にこんなことをしておきながら、求めているのは大人の自分というのが悔しかった。
 それなのに、帰ってきた早々こちらのスクアーロに文句を言われる筋合いはない。
「俺、10年後でアンタのこと、好きになったのに」
「…!」
 怒りで睨んでいたスクアーロの表情が驚きに変わる。武のまっすぐな瞳に射抜かれ、言われたことを何度も脳内で再生し直す。
「す、き、だとぉ?」
 困惑をあからさまに浮かべて聞き返す声に、武は未来から帰る直前に感じた別れぎわの寂しさを思い出した。
「……だって、アンタ、すっげぇ綺麗だった。つか、今も綺麗」
 こちらに帰ってきたらこちらのスクアーロとどうやって近づけば良いのか、そんなことばかり考えていた。きっとこちらでも剣帝への道を送ってくるんだろうとか、その時に会えるのだろうかとか。
 しかし、実際は自分を押し倒し『童貞よこせ』と言ってファーストキスも初体験も奪っていった記憶がこの人にあるだなんて予想外だ。しかもそれを責められるなど思いもよらない上にお門違いだ。
「剣技、すっげぇ綺麗だった。この間の戦いん時も凄かったけど、10年後のあんたはもっと」
「もう、いい!んな単語繰り返すなぁ」
 いたたまれなくなったスクアーロは武の口を義手で塞ぎ、熱の上がった顔を自前の手で覆った。
 真っ赤になったスクアーロの顔を見て武の中で何かがはじける。この人は記憶はあっても感情まで10年後から受け取ったわけじゃないんだろうと気がついた。受け取っていないのにこの反応は、何だろう。
 義手をやさしくのけて武は落ち着いた声で名前を呼んだ。
「スクアーロ」
「…なんだぁ」
「俺、あっちのあんたに口説かれ」
 今度は右手で口を塞がれたが、動きを読んでいたように右手も受け止める。
「10年後のアンタが、多分、俺の初恋」
 両手をそれぞれ抑えつけたまま、にっこりと笑った武にスクアーロは呆気にとられる。同時に武の顔がスクアーロの顔に近づき、触れるだけのキスをした。抵抗も無く合わさった唇が離れると、今度はスクアーロからキスをしかける。触れて、舌が無遠慮に侵入してくる濃厚なキスだ。
 離れると相手の瞳が間近に見えた。視界一杯に瞳と、特徴的な銀色の髪があふれている。
「本気かぁ」
 鋭い瞳からはまだ少し困惑の色が残っているけれど、怒りや否定の色は無かった。
「これから俺が口説かなきゃ、って思ってたんだけど」
 どうやら必要無いようだ、と無邪気な笑みを浮かべる。
 スクアーロは先を越したのが未来の自分だというのに心底腹立たしかった。
 思いがけず見つけた才ある少年は自分の予想を裏切るばかりの存在だ。別世界で育った不可解で無邪気な存在に負けた時には己の自尊心は粉々に砕かれ、この先生きている意味を失った。
 気力を失い主を奪われ、それでも己の中にぼんやりと形を作り始めていたのは無邪気な笑顔だった。
 それに気づいたのは突然流れ込んできた自分なのに自分で無いものの記憶の中にあった、艶めかしい記憶のせいだった。自分の下で淫らな表情を浮かべ息を乱し、己の名を呼んでいた。それだけで十分だった。
「言っとくがなぁ」
「ん?」
 右腕を腰にまわし再び唇を合わせて甘く吸い上げる。角度を変えながら舌を差し入れ先ほどよりも深く絡ませた。武の手もスクアーロの腰にまわり唇以外も触れ合わせる。
 ゆっくりと唇を離しにやりと笑ったスクアーロは耳に吹き込むように囁く。
「俺は、足開くつもりは無ぇからなぁ」
 あはは、と笑った武の背中を抱き寄せ、もう一度キスをした。



未来編終了直後に勢いで書き殴った。
今となってはグッジョブ自分…武があんなことになって1422再会が遠いのに、隙間に押し込んだ!(笑)

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