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学園テイルズ
仲良くおはよう
じっとりと不快な汗が身体に纏わりついてくる感触にむずがるような声を漏らしたモーゼスは、それでも今は露わにされている左目はともかく開くはずの右目すら開こうとしない。

和式六畳一間の狭いアパート。
家賃が良心的過ぎると思われる程に安いその部屋は、しかし外観からして住みたいと思える所ではない。
何十年風雨に晒されたのか分からない剥がれた塗装と剥き出しになるコンクリート。木造でないことが不思議なくらいに古い建物は、しかし貧乏な学生にとってはありがたいものだ。
それが、寝れれば良いと思っている彼のような人なら尚更。

すぴー、と自身の細い腕を枕に横向きで眠るモーゼスは薄いタオルケット一枚を腹に乗せているだけ。
上半身には何も纏っておらず、ダボダボのズボンも腰から少しずり下がっている。
殆ど家具のない部屋で唯一目立つ扇風機のタイマーは0のところで沈黙していて、モーゼスの肌に浮かぶ汗など見ぬふりだ。
「あつ、い…」
ごろりと寝返りをうつ。布団から落ちた身体に畳の目が容赦なく刺さってきた。跡が残りそうな程の痛みに、もう一度反対に転がって布団に逆戻りする。
太陽はゆるやかに目を覚ましていく。
朝五時。辺りが白み始めた時間になるとモーゼスの部屋の窓をかぐる音があった。
かりかりかり。
「んん…開いちょる」
「きゅーん」
早朝だ。動物にそんな気遣いがあるのかは疑問だがいつもなら威勢良く吼える口から小さな猫なで声を出して、大きな狼がモーゼスの部屋の窓を鼻先で開けた。
普段からモーゼスが親友と言って聞かないギートだ。
アパートの二階であるはずの部屋に窓から侵入できる手際はたいしたものだが、近隣の家人に見つかっては大騒ぎになる。ギートがこんなに朝早く部屋に訪れるようになったのは親友であるモーゼスを想ってのことだと本人は気づかない。
「くーん…」
冷たい鼻でモーゼスのわき腹を押して仰向けに転がし、目は覚めているだろうに意識を手繰り寄せようとしない彼の腹を薄い舌で舐める。
「ギート、くすぐったぁ…」
生温かい呼気も拍車をかけて、くすぐったさに身を捩ったモーゼスは低く唸ってから漸く目を開けた。
そうすると今度は飛び付くように細い身体にのしかかり、まだぼんやりしている目元を舐める。すっぽりモーゼスを覆うように下敷きにしたギートの尾が感情を表してしきりに揺れた。
「ん、しっぽ、くすぐった…」
「きゅーん」
もふもふの身体を抱き締めることで再び睡魔に襲われたモーゼスは、しかしそれをいち早く察知したギートに首を甘噛みされて目を開けた。牙をたてないよう考慮されたそれはくすぐったいだけではあったが、濡れた鼻先でつつかれる冷たさと首筋に伝う温かい感触に仕方なく。
「分かっちょる…ふぅ、起きる」
言うと、ギートがモーゼスの顎を舐めて喉を鳴らした。
重い身体の下で伸びをしたモーゼスは、んん、と呻いてから右目を開ける。
「おはよーさん、ギート」

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あきゅろす。
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