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メモリーズオフ小説部屋
【甘い緑の日まで】第1楽章



(美香)
『はぁ〜、何で上手くいかないんだろう・・・』

まだ蝉の音が止むことがなく、暑さが未だに続く夏休み明けの9月に、私は「河崎市立沢北高等学校」への道を歩きながら、ふとそんなことを呟いていた。何でそんなことを呟いていたかというと、今度の休みに晶にお菓子を持っていこうと思っているんだけど、これが中々上手くいかなくて悩んでいる。はぁ〜・・・どうしよう。

(美香)
『ちゃんとレシピの通りにしても駄目な時は・・』

ここまできたら頭の脳裏にある一人の人物が思い浮かんだ。


(美香)
『そう、静流さんに聞けばいいんだわ! 何で早く思い浮かばなかったんだろう』

静流さんというのは、白河静流さんと言って、あるお店で私にアドバイスをしてくれた女性である。お菓子にとても詳しく、初めて会ったのがある洋菓子店で、彼女がいろいろな種類のスイーツを見て真剣に選んでいたのを今でもよく覚えている。

(美香)
『あれは何ていうスイーツだったかな?』

私は以前の記憶を遡ってみた。思えば、静流さんと仲が良くなったのはあの偶然から始まったんだよね。・・・・・・あの日から・・・。


−数ヶ月前の千羽谷にて−


この日は休日を利用してここ千羽谷まで来ていた。ここは美味しいスイーツのあるカフェ、そして映画館、他にも個性が溢れるお店が並んでいて、とても活気がある大きな街である。私はたまに顔を出しており、今日は友人が以前話していた美味しいスイーツのあるお店を求めて足を運んでいた。そのお店についてもっと詳しく訊いとくんだったなぁ・・・。お店といってもたくさんあってどのお店か分からないですもの。

それで目に付いた洋菓子店へ取り敢えず入ってみたのだけれど・・・

(美香)
『う〜ん、どれも美味しそう。どれを選んだらいいのかよく分からないわ・・・』

そのお店にはモンブランやミルフィーユ、タルト、色取り取りのクッキーなど他にも様々な種類が豊富に置かれていて、どれも美味しそうだった。私はしばらくお店の中をぐるりと周り、色々なスイーツを見ていた。

(美香)
『あれもいいし、これもいいし・・・もうっ! これじゃいつになっても決まらないわっ!』

なんて周囲の目も考えずつい大きな声で言ってしまったものだから、何人か訪れていた人達が何事かと思って私の方に視線を向けてしまっている・・・。

(美香)
『す、すみません・・・』

無意識に大きな声を出してしまったので、視線を感じた時顔が赤くなっていたのが良く分かった。うぅ、恥ずかしい・・・。

とそこへそのお客の中から、私の方へ一人の女性が近づいてきた。

(???)
『あの、どうされました?』

(美香)
『えっ?』

思わず目を見やってしまった。その人は二十代の前半だろうか、もしかしたら学生かもしれないけど、とても綺麗な長い髪をした女性だった。


(???)
『いえ、何かお菓子でお困りのように思ったので』

(美香)
『わ、分かりますか?』

(???)
『ええ、物欲しそうな顔をされていた様ですので』

嘘、そんな風に見えてた? 余計恥ずかしくなってきた。でも困っていたのは事実だし、失礼だとは思いつつも、この人に聞いてみようかしら?・・・なんて事を思っていたら・・

(???)
『あのもし宜しかったら、私もお手伝いしましょうか? もしかしたら、あなたに何かあったものを見つけられるかも知れません』

と、親切に言ってきた。何でここまでに親切にしてくれるんだろうと疑問に思いながらもお願いしてみることにした。

(美香)
『あ、有難うございます。実は悩んでいるんです。どれにしようか迷ってしまって』

そう言って、再びスイーツの方へ目を向ける。

(???)
『なるほど・・・確かにどれを選んでいいのか迷ってしまいますよね。種類が多いし、どれも本当に美味しいですから』

その女性は私と同じようにスイーツを見てそう話してきた。すると、あるスイーツに指を指して私にこう訊ねてきた。

(???)
『それじゃあ、これなんてどうです? リンゴのタルト。ほんのりと香り漂うバターと甘いリンゴ、そしてアーモンドクリームが特徴のスイーツなんですけど、とても美味しいですよ。今、千羽谷で評判ですし、私もオススメします』

(美香)
『うわぁ、とても美味しそうですねっ!』

見た目もそうだけど、香ばしいバターとリンゴ、後クリームの柔らかい感じの良い匂いがして本当に美味しそうだった。どうやら、この女性もこれを買おうとしていたみたい。

(美香)
『これにしてみようと思います。どうも有難うございます! とても助かりました。見ず知らずの方にこんなことをお願いして本当にすみませんでした!』

申し訳なさそうに私はペコリと頭を下げ、その女性に謝った。


(???)
『いえそんな・・・顔を上げて下さい。それよりお役に立てて何よりです。それじゃあ、私はこれで・・』

(美香)
『あ、待ってくださいっ』

早々にその場を去ろうとした女性を私は引き止め、そして・・・

(美香)
『宜しければ、何かお礼がしたいのですが』

(???)
『いえ、そんなお礼だなんて。私はただお困りの人を助けただけですから』

照れくさそうな顔をしてそう私に優しく話しかけてきた。それでも私は諦めずにお願いしてみたところ、観念したのか応えてくれた。それからしばらくしてか、お菓子のことで話が合い、その後何十分かお互いにお喋りをしていた。

聞くところによると、何でも週に何回かはこのお店に来るらしく、女性の名前は白河静流さんと言って、すぐ近くの千羽谷大学に通っているらしい。

(静流)
『あなたとお話をしていると、ついうちの妹を思い出すわ。ちょっぴり雰囲気が似ているからかしら。ついさっき知り合ったばかりなのに不思議ね・・・』

(美香)
『ふふっ、本当ですね!』

私も同意見で、不思議と気が合ってしまった。それからというものの、週に何回かお店で会ったり、時々家へお邪魔したりして、お菓子のことを勉強させてもらっている。




それで今に至る訳だけど・・・・・・。



(美香)
『さすがに今は登校途中だから、家には寄れないけど、帰りに寄ってみよう。静流さん、家にいるといいけれど』

静流さんの家は藍ヶ丘にあるから、ここからだとちょっと距離がある。終わってからすぐ帰れば遅くはならないだろう。それより過去のことを思い出していたら、大分時間が過ぎてしまったわ。急がないと遅刻してしまうっ!


キーンコーンカーンコーン

(保体の先生)
『おい!羽田!遅刻扱いになるぞぅ〜』

校内で一番暑苦しい保健体育の先生、
中曽根先生にあった。
今日は門番みたい……。

(保体の先生)
『時間にルーズな奴は、やっぱり金持ちか…。これだから一流宗家の娘は……』

いつも私だけにこんな事を言う。
私の親を嫌ってるらしい。
私は中曽根先生を無視して学校に入って行った。


【9月1日】
【場所・教室】
【進行人物・羽田美香】

(美香)
『ふぅ〜♪みんなおはよう!』

(佐原愛深)
(サワラアイミ)
『おはようみかりん♪ねぇねぇ聞いた?……』

(美香)
『なになに?』

(愛深)
『隣町の浜咲学園での伝説♪』

浜咲学園の伝説?…

(美香)
『伝説?』

(愛深)
『そう!伝説♪あのね、卒業式でね♪女の子が舞台の上で話してるときにね!男の子が舞台上で…』

(美香)
『舞台上で?』

そして愛深は、私をその女の子に見立てて……。

(愛深)
『(雅……オレは……!雅が、好きなんだ!信じて欲しい!オレは、君を愛してる)』


と言いながら、私を抱き締めた。
(ぐっぐるじぃ〜〜!)


【進行人物・川口真奈美】

(美香)
『ふぅ〜♪みんなおはよう!』

(愛深)
『おはようみかりん♪ねぇねぇ聞いた?……』

(美香)
『なになに?』


は!美香ちゃん……。
美香ちゃん学校来たんだ……。
何か気まずいなぁ…。

……もう忘れたのかな?
あの出来事以来、美香ちゃんには会ってない。

ちなみに晶君とは夏休みに3回会って遊んだだけ……。

毎回会っても、何だか楽しそうに見えなかった。
いつも悩んでいるようだった。
「相談にのってあげる」と何回も言ってみたが、話してくれなかった。


もう、晶君に会わないほうが良いのかな………。

ふと、そう思っていると、私の目の前に誰か立っていた。


(美香)
『おはよう…真奈美…』

美香ちゃんは暗い顔をしながら、挨拶してきた。
少しびっくりした。

(真奈美)
『……うん。おはよう…』

私も暗く言ってみた。

(美香)
『やっぱり……、気にしてるよね…』

(真奈美)
『………』


私は言葉に出来なかった。
何で、私の事気にするの?もぅ放っておいてほしい……。
確か、晶君が悩みだしたのは、あの出来事以来…。
もうあんな晶君見ていたくない。
だから、私はこう言った。


(真奈美)
『もう……私の事、放っておいてくれないかな?……』

(美香)
『えっ!?』

(真奈美)
『私より晶君に構ってあげたら?あんな晶君もう見たくないよ……、私はもう…晶君の支えになれないよ…。美香ちゃん……、晶君の支えにでも、なってあげてよ…。』

(美香)
『ちょ、ちょっと!どう言う事?』

(真奈美)
『どう言う事って……。美香ちゃんのせいじゃない!自覚無い訳?』

(美香)
『ごめん……でも!』

(真奈美)
『言い訳?』


【進行人物・羽田美香】


真奈美ちゃんが辛そうな顔をしながら、睨んできた。
言い訳……。
そう言われても仕方ない。

(美香)
『……。ねぇ、ここじゃ目立つから場所変えよう?』

(真奈美)
『……。うん……』


私は教室を出て、屋上に行った。


【場所・屋上】

暗めの階段を、二人の靴音だけが響く。
そして、重い屋上の扉を押しながら開けた。

屋上には誰も居なかった。話すには、ちょうど良かった。


(真奈美)
『暑いね……』

(美香)
『……うん』

(真奈美)
『それで…言い訳は?』

(美香)
『……私ね、晶君が……』

(真奈美)
『好きなんでしょ!』

(美香)
『……うん』


私は正直に言った。
その方が良いと思ったから………。

(真奈美)
『……そう…。』

真奈美ちゃんは、一言そう言った。

(美香)
『真奈美?』

(真奈美)
『でも…。晶君はどっちが好きなんだろうね?』

(美香)
『えっ!?それは……、真奈美だと思う』

すると真奈美ちゃんは、怒りながらこう言った。


(真奈美)
『それは晶君に聞いたの?』

(美香)
『ううん。聞いてないよ……。』

(真奈美)
『だったら何で!そんな事が言えるの!!』

(美香)
『それは…晶と真奈美が恋人だから……』

すると真奈美ちゃんは、不安そうな顔で言った。

(真奈美)
『美香ちゃんのせいで、晶君あまり話してくれなくなったんだよ!もう……恋人なんかじゃないよ……。』

(美香)
『私のせい……。だよね…。』

真奈美ちゃんはいきなり目の前まで迫り寄ってきた。

(真奈美)
『美香ちゃんって……』

(美香)
『……ごめんなさい!許して!もうしないから!!』

(真奈美)
『もうしない?もうしないってどう言う事?』


つい口が滑ってしまった。
(美香)
『あっ…あのね……実は…、晶とキスしたの演技なの』
(真奈美)
『えっ?演技?でも…、演技だったら何で今は好きなの?』

(美香)
『………。』


口から言葉が出てこなかった。
これ以上言ったら、真奈美ちゃんと友達でいれない気がしたからだ。


(真奈美)
『…ふぅ〜。美香ちゃん…、もう怒らないから、晶君の事いつから好きだったの?好きになった理由を聞かせてくれないかな?』

(美香)
『……本当に怒らない?』

(真奈美)
『うん……』


真奈美ちゃんは何か悟ったのか、いつもの優しい表情になっていた。


(美香)
『…。えっとね。晶の事が好きになったのは、中学の学園祭の時なんだ』


すると真奈美ちゃんが、ビックリした表情になっていた。

(真奈美)
『学園祭って…、もしかして、私が晶君と付き合うきっかけになった時の学園祭?』

(美香)
『…そう。』

真奈美ちゃんは、考える素振りを見せながらこう言った。

(真奈美)
『…そっかそっかぁ〜♪美香ちゃんがねぇ〜』

(美香)
『どうしたの?』

(真奈美)
『ねぇ♪どうせなら晶君が私と美香ちゃん、どっちを好きになるか勝負してみない?』

(美香)
『勝負?……分かった良いよ』

すると真奈美ちゃんは、
今年の12月24日のクリスマスイブになるまでに、
晶君と一緒になれた方が勝ちと言う事で決まった。


つづく……)


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