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世界名作劇場小説部屋
アンネットの誕生日(わたしのアンネット)




春を迎える頃、ここスイスの南西にある『ロシニエール』という村に住む私に誕生日が近づいていた。


【アンネット】
「後もう少しで私の誕生日なんだわ、すっかり忘れてた」

実はつい最近まで自分でも忘れていたのよね。皆は気付いているのかしら? 今家では、私と5歳になった弟のダニー、父さんとダニーを赤ん坊の頃から育ててくれたクロードお婆ちゃんの4人家族。あ、そうだわ、犬のペーペルも私たちの大事な家族だったわね。



【???】
「おねえちゃ〜ん」

私が二階から下りてきた時、一階にいた弟のダニーが私の元へ駆けてきた。



【アンネット】
「あら、ダニー。何か用?」

【ダニー】
「えっとね、もうすぐおねえちゃんのおたんじょうびだよね?」

この子、私の誕生日知っていたのね。だけど、一体誰から聞いたんだろう? 私は教えたことがないからきっと父さんかお婆ちゃんね、きっと・・・。



【アンネット】
「そうよ。覚えていてくれたのね」

【ダニー】
「あたりまえだよ。だってぼくのおねえちゃんなんだもの」

そう言うと、得意そうな顔をして見せた。



【アンネット】
「嬉しいことを言ってくれるわね。ありがとう」

本当に可愛い子ね。ちょっと生意気なところがあるけど、それも踏まえて可愛いと思う。



【ダニー】
「うんっ」

笑顔でそう答えると、ダニーは私に尋ねてきた。



【ダニー】
「それでそのひにはおともだちもくるんだよね?」

【アンネット】
「ええ、マリアンやジャンにアントン、フランツも来るわよ」

マリアン、アントン、フランツは私が通う学校のクラスメイト。さすがに大人数は呼ばないけど、少人数だけでも私は十分嬉しいわ。




【ダニー】
「ふ〜ん・・・ねぇルシエンは?」

ルシエンというのはマリアン達と同じクラスメイトで、幼い頃から色々遊んだり喧嘩しあったりと、とても仲のよい友達。そういえば、ルシエンにも声をかけたけど、既にもう知っていたみたいだったわ。



【アンネット】
「ええ、ルシエンも来るって言ってたわよ」

【ダニー】
「わぁ〜い、よかった。じつはぼく、ルシエンとプレゼントをいっしょにつくるやくそくをしているんだ」

嬉しそうにそう話すダニー。作る?・・・・一体何をプレゼントしてくれるんだろう・・・。ルシエンと一緒というのがとても気になるわ。



【アンネット】
「そうなの、それで一体何を作るつもりなの?」

どうしても知りたくてそう問いかけると・・・



【ダニー】
「それはまだひみつだよ〜」

と言って教えてくれなかった。私がまた問いかけようとすると、その前に私の前から姿を消そうと外へ出ようとしていた。



【アンネット】
「こら〜、待ちなさいダニー。ちょっとだけでいいから教えなさ〜い!」

【ダニー】
「だめったらだめ〜」

話す気は全くないみたい。こうなったら無理やりにでも聞きだしてみようかしら。



【???】
「ほらほら、アンネットにダニー。そんなに駆け足をするんじゃありません」

大きな物音に気付いて、台所から昼食を作っていたクロードお婆ちゃんがやってきた。




【アンネット】
「だってお婆ちゃん」

【クロード】
「だってじゃありません。誕生日のことだったら、いずれは分かることだし、楽しみはとっておいたほうがいいと思いますよ」

お婆ちゃんの言うことはもっともだけど、あのダニーの顔を見ているとどうしても気になっちゃうのよね。



【クロード】
「それにお前は女の子なんだから、もう少しおしとやかにならなくてはね」

【アンネット】
「・・・は〜い」

それを言われると、何も言えなくなるわ。



【ダニー】
「そうだよ、おねえちゃん。もっとおしとやかにならなくちゃ」

お婆ちゃんと同じようにすかさず私にそう言ってきた。ん? でも、もっとって言わなかった?



【アンネット】
「もっとってどういう意味? あんたにまでそんなことを言われるとは思わなかったわ。こら〜、待ちなさい!」

ダニーったら生意気になったわね。ちょっとお仕置きをしないと。



【ダニー】
「うわぁ〜〜〜」

家の扉を開け、庭の周りを必死になって逃げるダニー。逃がすまいかと私は後から追った。こら、まてぇ〜〜・・・!



【クロード】
「・・・・やれやれ、言ったそばから・・・・、また始まってしまったねぇ・・・」

ため息をついて、お婆ちゃんはそう呟いていた・・・。






ロシニエール村の外れ、森の奥深い所に住むぺギン爺さんの小屋で僕は一つの木彫りを彫っていた。
これは出来上がったら、幼なじみのアンネットにプレゼントしようと思っている。前に学校でアンネットに誕生日のことで話しかけられた時よりも前から少しづつ彫り続けているため、もう形がほぼ出来上がっていた。

【???】
「・・・よし、ここはこうしてこうすれば」

一つ一つを丁寧に僕は彫り続けた。木彫りはちょうどアンネットが元気にかけている所をイメージして彫ってみたけど、さすがに動かないものとは違い、人の形を彫ったことがなかったのでとても難しかった。



【???】
「ほぉ、よく出来てるぞ、ルシエン」

僕がそれから彫り続けていると、この小屋に住むぺギン爺さんが声をかけてきた。この人はこの森で長いこと木彫りをしていて、僕が森の中で木彫りをしているときに知り合った。初めはとても怖いお爺さんに見えたけど、全然そうじゃなくて、とても優しいお爺さんだった。それからは僕に作品をいくつか見せてもらったことがある。それはとてもよく出来ていて、特に動物の木彫りを見せてもらったときは、まるで生きているかのように感じられた。今ではお爺さんと僕はとても仲良しだ。



【ルシエン】
「ぺギン爺さん、本当に?」

【ぺギン】
「ああ、本当じゃよ。とてもよく出来とる。これはお前が以前に話していたアンネットという子じゃな?」

ぺギン爺さんの言うとおり、僕はアンネットに似せたちょうど手の大きさと同じくらいの木彫りを彫っていた。ぺギン爺さんにはアンネットのことは以前に話したことがある。僕とは同い年で、昔から一緒に遊んだり、喧嘩したり、笑いあったりした本当に仲のよい友達であることを・・・。





【ルシエン】
「うん、本人をよく見て彫ったわけじゃないけど、似せたつもり。だけど・・・」

そこまで言って僕は言葉を曇らせた。



【ぺギン】
「だけど、何じゃ?」

興味深そうに次の言葉を待つぺギン爺さん。



【ルシエン】
「こっちの方が何だかとても綺麗に見えるや」

僕には本当にそう思った。どうしてこんなに上手く出来たのか、自分でも不思議だった。



【ぺギン】
「はっはっは、そんなことを本人に言ったら大変だぞ」

普段あまり笑わないぺギン爺さんがこの時はよく笑った。そんなに笑わなくてもいいのにな、ちぇ・・。



【ルシエン】
「そうだね、こればかりはさすがに言えないよ」

もし、話したりしたら、平手打ちだけでは済まないかも知れない。・・・・深く考えるのはやめよう。要は言わなければいいんだから・・・。



【ぺギン】
「それにしてもお前はアンネットととても仲が良いみたいじゃな」

それから僕が木彫りを彫って数十分経ってから、ふとぺギン爺さんはそう話してきた。



【ルシエン】
「うん、小さい頃から一緒に遊んでいたし、兄妹みたいなものさ」

どっちかっていうと、僕が兄で、アンネットは手のかかる妹といった所だな。



【ぺギン】
「ほう・・・。お前、ひょっとしてその子のことが好きなんじゃないか?」

唐突にぺギン爺さんは問いかけてきた。




【ルシエン】
「え? そ、そそそんなことないよ」

急に思いがけないことを言ってきたから、焦ってしまった。なんでそんなことをいきなり言うんだよ・・・。



【ぺギン】
「はっはっ、隠さんでもいいぞ」

【ルシエン】
「本当に違うってば〜」

その後もぺギン爺さんにそうでないことを説明するのに時間がかかってしまい、家へ帰ったのは外が暗くなってからだった。








〜一週間後のバルニエル家より〜



結局、一週間前のあの時に私はダニーから聞くことが出来なかった。ちょうど、父さんが隣に住んでいるフェルナンデルさんの家から用事を終えて帰ってきたためである。その時、父さんの後ろに隠れるんだもの、後もうちょっとだったのに。それからは何だか気がそれて、詮索するのはやめたけれど・・・・・・



【アンネット】
「いよいよ今日だわ」

そう、今日は私の誕生日。そのためにお婆ちゃんが朝からご馳走を用意してくれている。私も手伝おうとしたけど、今はお婆ちゃんだけで大丈夫らしく、ダニーとでも遊んでなさいと言われてしまった。けど、そのダニーがどこかへ出かけているみたい。もうっ、ダニーったらどこに行ったのかしら。それで仕方なく自分の部屋の掃除をしばらくしていると・・・




【クロード】
「アンネット、アンネット〜」

下からお婆ちゃんが私を呼んでいる。一体なんだろう? とにかく下に行かなければ。



【アンネット】
「今行くわ、お婆ちゃ〜ん」

急いで一階に下りたらお婆ちゃんと父さんが忙しく動き回っていた。



【クロード】
「悪いけど、やっぱりこっちにきて私の手伝いをしてくれないかね」

台所から出てきたお婆ちゃんはとても慌しい様子だった。さっきより本当に忙しそうだわ。



【アンネット】
「分かったわ、お婆ちゃん」

【ピエール】
「おばさん、次は何をすればよいでしょうか?」

父さんはもう今日の仕事を終え、少し前からお婆ちゃんの手伝いをしていたみたい。



【クロード】
「それじゃあ悪いけど、人数分の食器を並べてくれるかい?」

【ピエール】
「はい、分かりました。あぁそういえばアンネット、友達はそろそろ来るのかい?」

【アンネット】
「ええ、そろそろ来る頃だと思うわ」

そういって時計を見ると、ちょうど約束の時間が迫ってきている。



【ダニー】
「ただいまぁ、おそくなっちゃった」

そこへダニーが慌ただしく帰ってきた。



【アンネット】
「あんた、今までどこにいたのよ?」

【ダニー】
「うん、ちょっとね」

【アンネット】
「ちょっとねじゃ分からないでしょう!」

もうこの子ったら、また言わない気ね。白状させないと。




【クロード】
「アンネット、アンネット〜」

下からお婆ちゃんが私を呼んでいる。一体なんだろう? とにかく下に行かなければ。



【アンネット】
「今行くわ、お婆ちゃ〜ん」

急いで一階に下りたらお婆ちゃんと父さんが忙しく動き回っていた。



【クロード】
「悪いけど、やっぱりこっちにきて私の手伝いをしてくれないかね」

台所から出てきたお婆ちゃんはとても慌しい様子だった。さっきより本当に忙しそうだわ。



【アンネット】
「分かったわ、お婆ちゃん」

【ピエール】
「おばさん、次は何をすればよいでしょうか?」

父さんはもう今日の仕事を終え、少し前からお婆ちゃんの手伝いをしていたみたい。



【クロード】
「それじゃあ悪いけど、人数分の食器を並べてくれるかい?」

【ピエール】
「はい、分かりました。あぁそういえばアンネット、友達はそろそろ来るのかい?」

【アンネット】
「ええ、そろそろ来る頃だと思うわ」

そういって時計を見ると、ちょうど約束の時間が迫ってきている。



【ダニー】
「ただいまぁ、おそくなっちゃった」

そこへダニーが慌ただしく帰ってきた。



【アンネット】
「あんた、今までどこにいたのよ?」

【ダニー】
「うん、ちょっとね」

【アンネット】
「ちょっとねじゃ分からないでしょう!」

もうこの子ったら、また言わない気ね。白状させないと。



【ジャン】
「うわぁ、ご馳走だらけだな〜」

目の前に広がる料理を見て、ジャンが驚いている。



【フランツ】
「へえ・・・、これはすごい」

【マリアン】
「本当、どれも美味しそうだわ」

【アンネット】
「私も手伝ったけど、お婆ちゃんがほとんど作ったのよ」

マリアンの言うとおり、そこにはお婆ちゃんの手作りの料理がたくさん並べられており、湯気を出しながら美味しそうな匂いを漂わせていた。



【クロード】
「はいはい、皆席についておくれ。今日はうちのアンネットの為に来てくれてありがとう。みんな存分に食べておくれ」

【ピエール】
「私からも言わせてくれ。みんな今日は本当にありがとう」

お婆ちゃんに続いて父さんがそう言うと、ジャンが・・



【ジャン】
「やだなぁ、おじさん。俺達友達なんですよ。これぐらい当たり前だって」

他の皆も、うんうんそうそうと頷いている。でもジャンったら少し照れているみたい。



【アンネット】
「それじゃあ、みんなで乾杯しましょう」

飲み物を手にとってみんなに声をかける。



【みんな】
「アンネット、誕生日おめでとうっ!」

みんなが席についてから、一斉にお祝いしてくれた。



【アンネット】
「ありがとうみんな」

私は感謝の気持ちでいっぱいだった。



【マリアン】
「それじゃあ、アンネットに順にプレゼントを渡しましょう」

私がケーキの火を吹き消してから、少ししてマリアンがそう言ってきた。



【ジャン】
「よっし、まずは俺からだ。受け取ってくれ、アンネット」

待っていたかのように、ジャンは小さい包みを取り出した。



【アンネット】
「まあ、何かしら」

ポケットに入っていたようだから、そんな大きなものではないでしょうけど、一体なんだろう・・・。



【アンネット】
「これはハンカチ?」

開けてみると、包みから可愛らしいピンク色をしたハンカチが出てきた。



【ジャン】
「俺不器用だから、手の込んだ物が作れなかったんだ」

すまなそうな顔をして話すジャンだったけど、よく見ると・・・


【アンネット】
「あら、でもこれ」

ハンカチの一番端に文字が入っている。決して上手とは言えないかもしれないけど、これはA・B? 私のイニシャル?



【ジャン】
「ああ、イニシャルを入れてみたんだ」

ジャンが刺繍するのが信じられなくて私は笑い出しそうになったけど、先にアントンが堪え切れずに笑い出していた。



【アントン】
「ジャンが刺繍したのか、信じられないよ、あっはっはっ」

刺繍されたハンカチを見て、涙目になってる。



【ジャン】
「こら笑うなっ! お前笑いすぎだっ」

そう言うと、すかさず右手の拳でアントンの頭を叩いた。



【アントン】
「いてぇ、何も叩くことないじゃないか」

叩かれても、しばらくは笑いを堪え切れずにいた。相当つぼに入ってしまったみたいね・・・。私もつられて笑ってしまいそうだわ・・・。



【ジャン】
「うるさい、お前は黙ってろっ!」

まだ笑っているアントンを見て、頭にきたのかまた彼を殴ろうとしていた。でもそんな彼を私は制して・・・



【アンネット】
「うふふ、ありがとうねジャン。大切にするわ」

【ジャン】
「へへっ、ああ」

それでも私の言葉で怒りが納まったのか、気分が良くなったみたい。



【マリアン】
「次は私ね」

マリアンのはジャンとは違って少々大きい包みだった。何だろう?



【アンネット】
「まあ、帽子ね、とても綺麗」

開けてみると、白い柄の帽子が入っており、とても細やかで丈夫に作られていて、使うのがとても勿体無く感じた。この大きさなら暑い時に便利ね。被ったらとても涼しそうだもの。



【マリアン】
「色々悩んだんだけれど、アンネットに似合うかもしれないと思って選んだの。大切に使ってね、アンネット」

【アンネット】
「ええ、ありがとうマリアン」

本当に私は嬉しかった。ありがとうマリアン・・・。



【アントン】
「次は僕だ」

そう言って次に彼が私に差し出したのは・・・



【アンネット】
「まあ、綺麗。お花じゃない」

【ジャン】
「はははは、お前が花だなんて可笑しいよ」

【アントン】
「ふん、ジャンに言われたくないよ。今日の日のために用意してきたんだぜ」

【アンネット】
「ううん、可笑しくなんかないわよ、アントン、ありがとう!」

【アントン】
「うん、えへへ」

ジャンに言われて膨れっ面だったけど、私が言ったことで機嫌を良くしたみたい。



【フランツ】
「次は僕の番だね」

鞄の中から少し厚みのある包みを取り出した。包みを開けていくと、それは一冊の本だった。




【アンネット】
「まあ、これは・・・本ね。えっと『レ・ミゼラベル』?」

【フランツ】
「うん、『ビクトル・ユゴー』という人の本なんだ」

【アンネット】
「初めて見る本だわ。どんなお話なの?」

【フランツ】
「これはね、ある男が少年から銀貨を盗んでしまう話なんだけど、それで・・・」

フランツは簡単に『レ・ミゼラブル』の本について説明してくれた。この物語に登場するジャン・ヴァルジャンという男の事や、彼が長い事ある罪で牢獄に入っていたことなどを。

【フランツ】
「・・・というわけなんだ。きっとアンネットに気に入ってもらえると思うよ」

そう言って、私に厚みのあるその本を差し出した。



【アンネット】
「面白そうな話の展開になりそう。ゆっくり読ませてもらうわね、どうもありがとう」

【ダニー】
「じゃあ、つぎはぼくだ」

会が始まる直前まで家にいなかったダニーが今か今かと待ちきれずにそう言ってきた。



【アンネット】
「それじゃあ、見せてもらいましょうか」

これまでの一週間、教えてくれなかったから、ダニーがどんなプレゼントを用意しているか気になっていた。それが今日いよいよはっきりするわ。



【ダニー】
「うん、はいっ」

自信たっぷりな顔をして私に差し出したのは・・・



【アンネット】
「まあ、これは私? それにこの花飾り」

ダニーのプレゼントは二つあった。一つは私の似顔絵で、もう一つは綺麗な香りがする花飾りだった。花飾りの方はダニーが被ってみてと言うので、早速被ってみた。皆からはどう見えるだろう。似合っているかしら?



【マリアン】
「まあ、素敵よアンネット。とても綺麗」

【ジャン】
「ああ、似合っているじゃないか」

マリアンとジャン同様にアントン達や、父さん達も私を褒めてくれた。



【ダニー】
「よかった、とてもにあってるよ、おねえちゃん」

【アンネット】
「ありがとう、皆。そしてダニーも」

【ダニー】
「あと、えのほうはぼくがいっしょうけんめいにかいたんだよ。それにそのおはなはルシエンといっしょにさっきつんだばかりだよ」

【アンネット】
「へぇ、そうなんだ」

絵は他の人から見たら下手に見えるかもしれないけど、私にはそうは思わなかった。一生懸命描いたのがよく伝わってきたから。ふとルシエンの方を見ると、照れくさそうな顔をしていた。お花の方はどうりで帰りが遅かったのね。私ったらダニーをあの時しつこく追いかけたりして、とても馬鹿だったわ、反省反省。後でダニーに謝っておかないと・・・。



【アンネット】
「本当良い香りだわ、ダニー、そしてルシエン、どうもありがとう・・・」

二人とも満面の笑みで微笑んでくれた。



【ジャン】
「よし、最後はルシエンだな、やたらと大きな箱だけど一体何が入っているんだ?」

あ、そうだわ、まだルシエンが残っているのよね。今までのなかで大きい感じがするけど、一体何が入っているんだろう?



【マリアン】
「本当ね、何が入っているの?」

【ルシエン】
「うん、それはすぐに分かるさ。それじゃあアンネット、最後は僕からだ」

そう言って大きな箱を少しづつ開けていくと、一つの木彫りが顔を出した。



【アンネット】
「まあ・・・、これは」

もしかして、これは・・・私・・かしら? そこにはとてもいきいきとした手の大きさと同じくらいの私が立っていた。いえ・・正確に言うと、どこかを駆けて行っているように見える私の木彫りだわ。



【ジャン】
「おおすげぇ〜、これアンネットじゃないか」

この木彫りを見た途端にジャンは歓喜の声を上げていた。



【マリアン】
「本物そっくりね」

【フランツ】
「わぁ〜、すごいな」

マリアン達もとても驚いていた。



【アンネット】
「ここまで木彫りを上手に彫るなんてすごいわルシエン。ずいぶんと大変だったんじゃない?」

ここにもう一人の私がいるって言ってもいいほど、良い出来上がりだった。



【ルシエン】
「うん、さすがに上手く表現するのが難しくて時間がかかっちゃったけど、誕生日に間に合って本当に良かったよ」

【アンネット】
「ありがとう。大切にするわ、ずっと」

【ルシエン】
「うんっ」

【ダニー】
「うわぁ、いいなぁおねえちゃん。ぼくにそれをちょうだいよ」

それまで大人しかったダニーが急にそんな事を言ってきた。この子ったらいきなりなんて事を言うんだろう、全く・・・。



【ピエール】
「ダニー、それはお姉ちゃんがルシエンから貰った大事なものだから、それを欲しがっちゃ駄目だよ」

今まで私達の会話を聞いていた父さんがそう言ってきた。



【ダニー】
「それでも、ぼくはどうしてもほしいんだ、とうさん」

なかなか引き下がらないダニーに父さんは頭を悩ませている。そんな時にルシエンはこう言ってきた。



【ルシエン】
「それじゃあ、ダニーにも今度作ってあげるよ。それでいいだろう?」

【ダニー】
「えっ? ほんとうにいいの、ルシエン」

【ルシエン】
「ああ」

【ダニー】
「うわぁーい、やったぁ」

それを聞いてからダニーはとても喜んでいた。もう我侭な子なんだから。



【アンネット】
「ごめんなさいね、ルシエン」

【ルシエン】
「いや、いいんだよアンネット。木彫りを彫ること自体嫌じゃないし、ダニーの喜ぶ顔が見たいからね」

そう話したルシエンは嫌な顔をせずに、ダニーとの約束を快く受けてくれた。




それからお祝いに来てくれたルシエン達と食事や色々な話を済ませた後、父さんとお婆ちゃんに外へ遊びに言って来ると伝えてからこれまでの間、主に近くの川で釣りをして時間を過ごしていた。そして今はもう夕暮れ時・・・。



【アンネット】 
「もう、日が暮れてきたわね」

【ルシエン】
「うん、夕焼けが綺麗だ」

皆で釣りをした帰りに私とルシエンはそう話していた。ジャン達は私達の少し前を歩いている。



【アンネット】
「ええ、とても綺麗。今日は私とても楽しかったわ。それにしても釣りが上手なのね、ルシエン」

釣りをしていたのは男の子のルシエン達で、私とマリアンはその光景を見たり、お話ししたりしていた。ルシエンは大きな魚を釣っていたけど、私もあんな大きなもの釣ってみたいわ。きっと難しいんだろうなぁ。



【ルシエン】
「へへっ、そうかな。アンネットにも今度よく教えてあげるよ」

笑顔でルシエンはそう答えた。



【アンネット】
「ええ、ありがとう」

よーし、早く上手くなってルシエンを驚かせてあげるんだから。



【アンネット】
「ところで、外で遊んだのもそうだけど、家での誕生日会とても楽しかったわ。お祝いしてくれるのはとても気持ちのいいものね」

【ルシエン】
「そりゃあそうさ、誰だってお祝いしてくれると嬉しいものだよ」

【アンネット】
「それは分かってるわ。後、皆からのプレゼントも私ずっと大切にするつもり」

【ルシエン】
「うん、そう言ってくれると僕は嬉しいよ。皆もきっと同じ気持ちだと思うよ」

そう言って、前のジャン達を見る。彼らは今日釣った魚について色々批評しているみたいだった。




【アンネット】
「ねえ、ルシエン」
少し間が空いたときに私はルシエンにそう話した。



【ルシエン】
「何だい?」

【アンネット】
「あなたとは喧嘩してばかりだけど、これからも宜しくね」

唐突だったかもしれないけど、私はそう言って手を差し出した。




【ルシエン】
「な、何だよ、急に改まったりして」

ルシエンは驚いている様子だったけど、続いて手を差し出してくれた。



【アンネット】
「ううん、きちんと言っておきたかったの」

【ルシエン】
「そっか・・・。でも当たり前のことだよ」

【アンネット】
「えっ?」

当たり前だというのが何のことだか分からなくて、私はきょとんとしてしまった。



【ルシエン】
「僕達友達だろう? そりゃあ、アンネットは男の子みたいに振舞うし、頑固でちょっとしたことですぐ怒ったりする・・・・」

言いかけた後ではっとするルシエン。ふ〜ん、あんたってば私の事をそういう風に見てたのね!



【アンネット】
「ずいぶんと言いたい放題言ってくれるわね」

【ルシエン】
「ち、違うんだアンネット。つい口が滑っちゃって・・・」

後ずさって私から逃れようとするルシエン。だけど、私はそんなルシエンをさらに追いつめた。




【アンネット】
「ふ〜〜ん、つい口がねぇ・・・」

そこまで話してから、私は一気に大声で叫んだ。



【アンネット】
「ルシエンっ!」

【ルシエン】
「ひぃっ!」

私の大声でルシエンったら変な構えをとっているわ・・・。



【アンネット】
「目をつぶりなさい」

【ルシエン】
「な、何で?」

【アンネット】
「いいから早くしなさい!」

ルシエンは私の気迫に押されて素直に目を瞑った。



【ルシエン】
「わ、分かったよ。これでいいの?」

少しの間の空白の時間・・・私はルシエンの頬っぺたにキスをした。あの様子じゃまだ気付いていないみたい。全く鈍感なんだから・・・・・・。



【ルシエン】
「・・・・あれ? 今・・何したの?」

目を瞑っていたせいか、何かをされたとは分かっていても、それが何なのかルシエンは分からないでいた。



【アンネット】
「さて、何かしらね」

【ジャン】
「俺見たぜ、アンネットがルシエンの頬っぺたにキスしてたぜ」

私達のやり取りをジャンはこっそり見ていたみたい。本当に意地が悪いわ。

【アントン】
「えぇ〜〜っ、本当?」

ジャンの言葉を聞いて心底驚いているみたい。隣のフランツとマリアンも同じくそうだった。



【ルシエン】
「こ、こらジャンっ!」

【ジャン】
「何だよ、いいじゃんか。それにお前、デレデレしてただろう?」

【ルシエン】
「で、デレデレなんかしてないよ!」

【ダニー】
「ほんとうにおねえちゃんとルシエンはなかがいいよね、ねえルシエン、おねえちゃんとけっこんしたらどうかな?」

今までに私達のやり取りを聞いているだけだったダニーが、変なところでちょっかいを出してきた。



【ルシエン】
「な、何を言うんだよダニー!」

慌てて否定するルシエンだったけど、それを信じる人は一人もいなかった。



【ジャン】
「あはははは、それは傑作だぜ」

ダニーが言ったことがよほど可笑しかったのか、ジャンはお腹の底から笑っていた。うううぅ、もう頭にきたわっ!



【アンネット】
「あんた、どうしても私を怒らせたいみたいね」

【ジャン】
「へんっ、女なんかからかったりしても面白くもなんともないや」

本当に何とも思っていないようで、堂々とした態度をとっている。よーし、こうなったら・・・


【アンネット】
「何よ、このデブっ!」

頭にきたもんだから、つい大声でそう叫んでやったわ。



【ジャン】
「あ、あぁ〜! お、お前言ったな〜っ!」

ここで悪口を言われて初めて形相がスゴイことになっているわ。これだけで怒るなんて本当に子供ね・・・。



【ルシエン】
「お、おいやめろよ、二人とも」

私とジャンの中に入って止めようとしたけれど、すでに火がついている私達に敵わず揉みくちゃにされるだけだった。だけど、慌てて割って入ってきたフランツ達のおかげで大事にならずに済んだ。


相変わらずクラスメイトのジャン達とはこうした衝突をすることがあるけれど、何もこういったことが日常茶飯事というわけではない。どちらかというと一緒に楽しくおしゃべりをしたり、遊んだりすることの方が多い。だから、何事も無かったようにすぐ仲直りしてしまう。だから私はそんな皆がとても大好き・・・。



【アンネット】
(そう、いつまでもこの気持ちを大切にしていかなくては)

この先、ふとしたことで醜い心が出てくるかもしれない。それでも相手を思いやる気持ちを大切にして精一杯生きていこう。大きくなってもその事を忘れずにいよう。そう心から私は思うのだった。



-おわり-


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