序章

「目が覚めたかい?」

「え…?」

とんでもない物語の始まり。疑いたくもなるほど、それは難くて愛おしい物だった。
どうしてこんなにもお互いを求めたのだろうか。どうして…こんなに。

翡翠色の髪の毛と同じ色の瞳がうっすらと開いた。
霞む視界を朦朧とその翡翠は追いかける。
記憶が正しければ、本来ならばこんな所に居るはずではなかった。光りの粒子となり消えて世界へ、星へ帰るはずだった。

だが、聞こえてきた声と霞む視界の先に見えた人物は何事もなかったかのように笑っていた。
何故笑う?何故そんな笑顔でいられる?
アンタは、アンタ達は僕を殺したんじゃないの?

黄金のような、太陽のような美しいブロンドの髪と碧の瞳。
まさか、こんな事になるなんて思いもしない。そんな物語の始まりの幕を開けたのは、アンタだった。


「よぉ、シンク…。大丈夫かい?」

「ガイ…?」


次第にハッキリとして行く視界に鮮明に写る色。
ハッキリしなくても誰が誰なのか、記憶が嫌なくらいに覚えている。
翡翠色の髪に翡翠色の瞳を持つ小さな少年、シンクは自分の横たわるベットに腰を掛けてこちらを心配そうに見てくる人物の名前を呟いた。

「どうだ、気分はいいかい?」

何がどうなっているのか理解できない。
なんで、僕はこんな所にいるのだろう。シンクは思い切り理解不能だといった顔をした。
そもそも此処はどこなんだろうか。見えるのは敵であるガイの顔と自分を包む白いシーツと、向こう側に見える小さな無数の音期機関だけ。
ボーっとするシンクにガイは声を掛けた。ゆったりとガイに視線を向けるシンクが小さく唇を開く。

「……最悪だね…。なんでアンタがここにいるんだ…。」

「おいおい、命の恩人に向かってそんな言葉は無いんじゃないのか?」

「は?」

「覚えてないのか?」

気分はパラメーターで一番低い位置を示す。そう、最悪の気分。
視線を向けた先でガイの瞳とぶつかるとシンクはすぐに逸らして嫌そうな溜息を零した。
そんなシンクにガイはハハッと苦笑を混じらせた渇いた笑いを零す。
ガイの言った言葉には耳を疑わずにはいられなかった。
命の恩人?何かの間違いだろ?アンタは僕と戦った。そして、僕は負けた。
だから、そこで確かに殺された筈だった。命の恩人と言うよりは、難き宿命の相手と言った方が正しいんじゃないのか、とシンクは胸内で呟く。

「俺達がヴァンと戦って、ルークの力でローレライが解放されたんだよ。ルークも帰ってきた。そしてお前も帰ってきたんだよ、シンク。」

「僕はあの時死んだはずだよ。」

「さぁね、それは俺もそう思ってたからお前が街の近くで倒れていた時には驚いたさ。」

「……理解できないね。」

「…いいんじゃないのか?もう世界は平和で、お前ももう戦う必要はないだろ?」

本当に理解できない。ただでさえ、今の状況に混乱しつつあるのにガイの口から出てくる言葉はそれ以上に混乱を招いた。
だが、ガイは優しく笑う。あの時は敵同士でそれは今も変わらないはずなのに、ガイはそんな事はもうどうでもいいといったように笑っている。
それもまた、シンクには理解できない事だった。

「アンタは…、僕を助けてどうしたいのさ…。」

いくら命の恩人だと聞いても易々と信じれる筈がない。
シンクは睨むようにガイを見つめた。

「……助けたんじゃないさ…。」

「は?」

すると、優しかったガイの笑みは一気に消えた。
黒い炎をちらつかせたような、陰謀を秘めたような瞳がギラリとシンクを見据える。
口端がニヤリと上がり冷たく吐き出された言葉にシンクはどうしようもなく背筋に悪寒のようなものを感じた。

「拾ったんだよ…。」

低い声で紡がれた言葉。助けたのではなく、拾った命。
ガイが先程言っていた言葉を思い出す。

(もう戦う必要はないだろう?)

その言葉がこの物語の序章を奏でるのだろう。

「あのまま街の外で魔物に喰われるより、俺の玩具になった方がマシだろ?」

「…ッ…ふざけ…」

戦う必要などない。
それはそう、戦わずにすむと言うこと。

戦いのない世界で、一生玩具として生きると言うこと。
玩具に自分から意志を示す生存理由など必要ない。
玩具に自己主張なんて必要がない。

玩具となったモノが生きて行くには、必要とされるだけ。

ニヤリと笑ったガイがシンクに手を伸ばした。



続く















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あきゅろす。
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