彼の力
落ち着いて?
自分は何を考えている。
竹田達の声が耳に届く事。
スケボーモドキがたまに地面をかする事。
手が痺れている事。
自分が緊張している事。
自分は、様々な事に気付いている。
単にパニックになって振り回されているわけじゃない。
この原因は、バランスがとれていない事。バランスがとれなかった最初のミスが自分の頭の中を埋め尽くしているだけだ。
別の事で頭がいっぱいになれば、能力に意識を集中させるなんて出来る筈がない。
そのせいで集中は途切れて、結果自分は振り回されている。
それにすら、今自分は気付いたのだ。
相変わらずスケボーモドキは自分をぶら下げたまま猛スピードで空を飛び回っているが、もう怖くはない。
痺れてきた手だって、もう大丈夫。意識は集中できる。
(俺の願ってる事、分かるよな!!)
見据えるのは、たった一つの的。
「…?」
久々里は、気付いた。
先程から延々と忍野を振り回し続けていたスケボーモドキが、急に下降を始めたことに。
急に下降する事事態は、さっきまでもあった。忍野を地面に叩きつけようとするかのように、何回か地面を掠る事があった。
(だけど、今は…?)
まるで、言うことを聞いたように、その下降には意味があると感じた。
まさか、彼は今日訓練を始めたばかりじゃないか。なのに、まさかまさか。
急下降は途中で止まる。
少し斜めになり、その先は的を見据えている。
「おい、まさか…!?」
驚きを含むこの声は、花鳥だったか。
そんな事が分からなくなる位に、久々里はその光景に意識を集中させていた。
まさかまさかまさかまさかまさかまさか。
的を見据えた忍野は、再び意識を集中させる。
(もっと強く、爆発しろ!!)
それに応えるかのように、今まで風しか出なかったモーターから青い炎が勢い良く吹き出す。
スケボーモドキがガタガタと震えだした。動きたくてたまらない、まるでそう言っているようだった。
「…ああ。勢いよくいけ!」
忍野の言葉と共に、それは猛スピードで的に近づく。
半ばで、忍野は手を離した。
ただ離すだけではなく、スケボーモドキを前へ押し出すかのように。
「いっけええ!!」
忍野の体が離れる。一気に軽くなった機体は迷う事なく的へと向かった。
ドオオンッ!!
的に突っ込んだ機体は激しい音を立てた。落ちた忍野は、ガリガリと地面に体をすりながら止まった。
忍野が止まると、スケボーモドキは光へと戻り、忍野の体へ吸いこまれていく。
「すっげえ!忍野ーっ!!」
歓声を上げて忍野の元へ駆けていく竹田や二宮、花鳥を見ながら、喜多嶋は金髪をガリガリと掻いた。
「…予想以上だな…」
学園長から大まかに聞いてはいた。
けれど、まさかこんな簡単に使いこなすなんて。
これからどうしようか。
悩みながら忍野の方へ歩み出した時、ふと久々里を見て柔らかく笑う。
「…凄い」
そう呟いた久々里は、滅多に見せない笑みを浮かべていた。
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