願いは遠く、消えていく 広い道場の真ん中で、1人の女性が正座をしている。普段は門下生が練習していて活気がある場所なのだが、今はただただ静寂がその場を支配していた。 「……」 女性は目を閉じ、両手を合わせて祈りを捧げている。何を祈っているのか、どこに捧げているのか、それは誰にも分からない。 「…よし」 どれくらいの時間が経っただろうか。漸く女性は目を開けた。真っ直ぐと前を見据えるその姿は凜としている。 「時間は、有限じゃないんだぞ。分かるか…華神」 小さく呟いたそれは、風に消えた。 1人部屋の中で佇むのは、長い黒髪を一つにまとめた少女。自分の右腕をじっと見つめたまま動かない。 彼女には聞こえている。自分の鼓動が。 「それは…最初から分かっていた事だ」 小さく呟いたそれは、風に消えた。 次 |