ついに 斎貴が、静かに、静かに語り始める。 「…俺は、自分が嫌いだった。無表情で、無愛想で、ひねくれてて。 …俺は、兄貴に憧れていた。いつも笑顔で、愛想がよくて、器用で。 ずっと、ずっと兄貴になりたかった。」 そんな斎貴の頭を撫でるのは、兄である幸村来流。 「俺の能力は、他人を真似できるものだ。だけど俺は考えた。 俺の何かを、他人に真似させられるんじゃないか…ってね。 丁度斎貴が俺に憧れていたからさ、性格を真似させてみたんだ。応用すれば何だってできる。能力って凄いよねえ!」 グラウンドに、幸村来流の笑い声が響く。 幸村斎貴は10歳で能力が発動して学園にきた。性格が変わったと気付いた人はいない。つまり、彼が学園に入る前に、性格は変えられていたということで。 誰も信じられなかった。 何をしているんだ? こいつは、本当に兄なのか? 何も言うことが出来ないまま、何を言えばいいのか分からないまま時間は過ぎる。 そんな中、1人の声が響く。 「…あんた、俺に言ったな?「斎貴と仲良くしてあげてね」って」 「言ったね。確かに」 窓の縁に両手をかけて。顔は、下に向けたままで。 「こうも言ったよな。「楽しいこと、あるといいね」と」 「うん、言ったよ」 「お前、アイツらに会ったのか!?」花鳥の質問には、答えないままに。 「…これが、楽しいことだって、あんたはそう思うのか?」 「そうさ」 彼の雰囲気が変わったのに敢えて気づかないままで、幸村来流は軽く答える。 「だってさあ、ちょっと試しただけだよ?それが何年も続くなんて思わないじゃん。実験は大成功だよ!!」 「実験」と、来流は確かにそういった。 自分勝手な思い付きに、弟を実験に使った。 自分に憧れていたのを利用して。 花鳥は気付いた。隣にいる、友人のまとう空気が違うことに。 彼とは長い付き合いではない。何もかも知っているわけじゃない。だから、自分の予想が当たっているとも限らない。 だけど、と花鳥は思う。間違いない。そう、間違ってない。 普段のこいつは、こんなに声が低くない。 そう、確信した。 その彼は、静かに、だけど明らかに感情を含んだ言葉を紡ぐ。 「ふざけんな」 −忍野裕樹が、キレた。 前次 |