続・時雨(神ニキ蔵)


 パシパシパシ…


暗い寝室に雨粒が屋根を叩く音が響く。


「…誰だ」

蔵ノ助はこちらの気配を感じたようで、
起き上がりながら傍らの刀を握った。

気配を隠す事無く俺は蔵ノ助に近付く。
普段は気にならないフローリングの軋みがうるさい。

「俺様がわざわざ来てやったんだぜ?
 もうちょっと愛想良くしろよ」

普段通りに振る舞いつつも少しばかり殺意の念を送ってみる。
それに気が付いたのか蔵ノ助は額に汗の粒を噴き出させながら身を固くした。

「…ほー、神様はお戯れに俺の命でも奪いにいらっしゃったんですかねェ?」
「そーんな訳無いじゃん、
 遊びに来てやったんだよ」
「…何企んでやがる」

蔵ノ助の眉が寄る。
しかしパンツ一丁で睨まれたところでなんの凄味も出ない。

「クク、分かんない?」
「……」
「『神』としてはお前を赦してやるよ、
 でも『個人』としては許さない」
「…どうする気だ」
「神は絶対的な罰を与えるけど、
 人間は人間に相当する刑を与えるだろ?
 なら俺もソレに則っるまでだぜ。
『目には目を』ってヤツだよ」
「はっきり言え…ッ」

蔵ノ助が俺を睨み付ける。
…たまんないね、そのちっぽけな反抗心。
捻り潰してやりたい。

「ニッキー、来いよ」
「はぁーい☆」

俺の後ろに控えていたニッキーがひょこりと顔を出す。

「! ニッキー!
 お前大丈夫だったのか!?」

蔵ノ助の顔色が変わる。
しかしニッキーは訝しげに蔵ノ助は見た。


「え、エムゼ、
 なんでこの人オレの事知ってんの?」


ニッキーの対応に蔵ノ助は目を見開く。
だが瞬時に状況を把握したのか、
キッと強く俺を見据えた。

「MZD…まさかテメェ…」
「…っくっく、アハハハハ!」

思い通りの反応に笑いが止まらない。
そう、俺はニッキーの中から『蔵ノ助の記憶』を奪った。
今は綺麗サッパリ忘れている。
ただ恐らく蔵ノ助は『消した』と思っているだろうが、『隠した』のが事実。
例えるなら…『ニッキー』と言うPCにある『蔵ノ助のファイル』をゴミ箱にポイした訳ではなく、圧縮して簡単なロックかけた状態。
つまり、蔵ノ助がPASSさえ見付ければ、ニッキーは蔵ノ助を思い出す。
…もしこれから起こる事の最中で蔵ノ助がそのロックを開けると、俺の望む、最高に楽しい事態になる。


場に冷ややかな空気が流れた。
その空気に堪えられずにニッキーが口を開く。

「…ちょっとちょっとぉ、
 オレだけなんか蚊帳の外なんだけど」
「ふふっ…あー、わりわり!
 こいつ蔵ノ助って言うんだけど、
 こないだこの俺にナメた事しやがってさァ」

そこまで言えばニッキーは自分が何故連れてこられたのか理解した様で、
にんまりと悪い笑みを浮かべるとフゥン…と呟いた。

「お手伝い…シても良いの?」
「お前が適任だから連れてきた」
「さっすが!分かってるゥ!」

俺らの会話から蔵ノ助はこれから起こる事が予測出来たのか、小さく舌打ちして身動ぐ。
そんな蔵ノ助を見てニッキーは舌舐めずりする。
そんな二人を見て俺はゾクリと鳥肌を立てた。


「さぁ、」


今夜を楽しもうか。





(続きます)

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あきゅろす。
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