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君に届け!
ハーメルン/落乱 伊作

伊作夢
※微グロ
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「私たちは、なぜ生きるのだろうか」

保健室で薬を調合していた伊作は、突然篠祇から漏れたものに、思わず手を止める。

「突然どうしたんだ?」


「…この間学園長の命で合戦場へ行ったときに、人を殺したよ」

伊作の肩が、震えた。


見下ろしたのは、既に事切れた人間だったもの。
鼻を突くのは、己の手を染める鉄錆の臭いだった。


──戦が始まるかもしれない。

その報を受けた学園長は、六年である自分を偵察に寄越した。
両者の戦力を知るために。

来て早々に敵と間違えられ、攻撃された。
習慣とは恐ろしいもので、気づく前に、六年間に鍛えられた体は考える前に敵の喉を掻き斬っていた。

もう息はないだろう。
若い、忍のようだった。

───これが自分だったら

そう考えるだけで、恐怖にぞっとした。
忍である以上、必ず対面するであろう殺し合い。

あの後どう取り繕おうが結局は、私はただ自分が死にたくなかったのだ。


「その時思ったんだ。なぜ人は生きたいと思うのか」

とうとう薬を調合する作業を中断して、伊作は押し黙ってしまった。
誰かが傷つくのを、殊更嫌がる伊作だ。

忍であるとはいえ、そんな伊作は、私が誰かを殺したということが辛いのだろう。

たっぷり十を数えて、漸く口が開かれた。


「…生きたいと思うのは、人間の生存本能だからだよ」

事務的な応え方。
静かな声音からは、なんの感情も読み取れなかった。

「…そうだな」

本能。
そう片づけてしまえば簡単だ。
確かにそうなのだろう。
あの時に戻っても、自分は同じ選択をするのだろうから。

「帰ってこいよ」

「…約束はしかねるな」

泣きそうな声に気付かない振りをする。
それでも、伊作は強い瞳でこちらを見つめ返す。


「この学園にいる間は、勝手に死ぬのは許さない。お前の治療をするのは、私だからな。
治療には一番しみる薬を使ってやる!」

嫌な断言された。

本当に甘くて…優しい友人だ。
篠祇は静かに瞬きをした。


「…それじゃあ、おちおち怪我もしていられないな」

「当たり前だ!」

伊作はやっと笑う。

こいつを無くしたくないと、篠祇は痛切に思った。


「…約束するよ」

保証もできないような、そんな儚い約束を交わした、15の春。



ほら吹きハーメルン
まだ子供だった僕ら




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あきゅろす。
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