君に届け!
終わりのマーチ/庭球 手塚
手塚夢
※微裏・悲恋注意!
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クスリ、と笑う気配がした。
「…なんだ、篠祇」
首筋に顔をうずめた自分を見て、篠祇は可笑しそうに片目を眇める。
「お前は可笑しいと思わないか?こんな非生産的行為を続ける俺たちが」
どう足掻いたところで自分達に残るのは、社会への罪悪感と背徳、そしてお互いの恋人に対する裏切りだ。
もちろん相手は異性であり、今隣にいるようなムサい男などでは決してない。
「今更だろう」
「さて、今の恋人とは、いつまで持つかな…?」
明日の天気を聞くような軽い問いかけ。
手塚は端正な眉をしかめ、出そうになった言葉を飲み込む。
いつからだろうか。
篠祇とこのような関係になったのは。
元々派手な人付き合いだったこいつを見つけたのが、一年の春。
…関係を結んだのは、昨年の今頃。
ちょうどこんな寒い日だった。
初めは、流されて。
しかし何時しか、彼に軽い付き合いをしてほしくないと思いだした。
自分を見てくれたら、
自分の物になってくれたら、
醜い嫉妬を覚えるようになり、そんな自分を嫌悪した。無表情にそれを隠して、ただ篠祇が求めるままに体を繋ぐ。
バカみたいだ。
篠祇の言う通りこれは所詮社会への反発で、非生産的行為に他ならないというのに。
「…もう黙れ」
未だに弧を描く唇を己で塞ぐ。
───
「もうやめるか、」
気だるい最中に、手塚から零れ落ちた言葉。
それに、篠祇は固まった。
「何言って…」
「お前が言ったんだ。確かに、このような不毛な関係を続けても意味はないからな」
篠祇は目に見えて狼狽えた。
瞳には困惑が浮かび、次いで、疲れたような諦めたような色を浮かべる。
「…そうか」
それきり篠祇は沈黙した。
身支度を整えた手塚は、そんな篠祇を残して立ち上がる。
ここにいては、お互いによくないだろう。
「なあ、手塚」
ノブに手をかけたままの手塚の背中に、篠祇は呟く。
「本当は、止めてほしかったのかもしれないんだ。他でもないお前に…なあ手塚。お前のように強ければ、俺はお前を傷つけなくて済んだのか?」
なんと勝手な言い分だろうか。
しかし手塚には、篠祇へ抱いてしまった想いへの後ろめたさがあった。
何も言えないでいる手塚に、篠祇は手を伸ばしかけて、やめる。
これが最後だと
「愛してた。サンキュー、親友」
「…ああ」
俺もだよ。
おわりのマーチ
始め方すら、間違っていた
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