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此処は世界の中心◇



ユキは刀を握っていた

まだ恐い

我を忘れて見境無く人を殺すのではないかと、あれから何年も経った今も思う


だが、弓だけでは足りないのだ

真田幸村、長宗我部元親、上杉謙信、他にも多くの猛将達が全国に普(アマネ)いている

近接戦闘が主となれば、弓を引く分だけ隙ができるのだ

それでは政宗を守れない



「‥‥‥‥‥」




音もなく刀を抜いた

構え、刀身に目を走らせる


ゆらり


ああ、また、炎が見える

村を、父を、母を、弟を、姉を、全てを

焼き尽くす炎



「ユキ」

「っ、‥‥政宗」



後ろから刀を握る手を掴まれた

炎が消える

月が照らす、青葉城の美しい庭の木が玉砂利に陰影を落としていた



「何やってんだよ、こんな夜中に」

「練習だ」


「こんなに震えた手でか?」



カタカタと、重なる政宗の手も一緒に震えた

ユキがぐっと刀を握りなおすと、政宗もユキの手を握りなおす



「深呼吸しろ、ゆっくりだ」

「‥‥‥‥‥」



言われた通りに深く息を吸う、そして吐く

何度か繰り返した頃に政宗は囁いた



「俺の為だろ?」

「ああ」


「だったら俺を助ける事だけ考えてりゃいい。余計な事は頭から追い出せ」

「‥‥ふっ」



ユキは笑いが込み上げた

震えが止まったからだ


ああ例えば、こういう事を救いとでも言うのだろうか?

たった数瞬で救われる、我ながら何と簡単な奴だと呆れてしまう



「政宗、気分がいい。手合わせしてくれるか?」

「okay.手加減はしてやれねえぞ」



ニヤリと笑んで牙を抜いた竜に、ユキも微笑み構え直した




2010.7.25.

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あきゅろす。
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