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鬼子でかまわぬ◆



義姫、とは

政宗のお母上なのだそうだ


政宗が病気をしてからは疎遠になっていたそうだが、今、政宗の所へ来ているらしい

らしいというのは政宗がユキを遠ざけたからで、何故なのか納得のいかなかったユキは隣の部屋に潜んでいた



「お元気でしたか?母上」

「‥‥‥そなたも」



聞き耳を立てるがそれ以上の会話はなく、ただ時間だけが過ぎていく

どうしたのだろう?

久しぶりならば話す事も沢山あるだろうに、本当にそれ以上の会話はない



「母上」

「黙りや、そなたに母なぞと呼ばれとうない!」



え?



「殿も何を考えているのやら、こんな鬼子に伊達を継がせるなどと、正気ではない」



義姫が衝撃の言葉を口にした後、政宗は一つ溜め息を吐く


あ、あ、そうか、会わせたくなかったのだ

もしかして、知られたくなかったのだ


この母親のことを



「失礼致します」

「誰じゃ」


「ユキと申します」

「ユキ!来るなと言っただろうが」



何かを言おうとした訳ではなかった

政宗の怒りを買うのも分かってはいた

だがどうしても、何故か、政宗の側に居たかったのだ



「‥‥ほぉ、そなたの噂は聞いておる。話しをしてみたい」

「っ‥‥、」



政宗は義姫に視線を向けられると、ユキを一度見てから出て行った

次期当主さえも追い払うか

怖いお人だ



「そなたのその髪、まこと鬼のようじゃ。鬼子が鬼子を拾うとは、面白い事もあったものじゃな」

「私は確かに鬼子に御座います。ですが政宗は、政宗様は鬼子では御座いませんよ」

「何を申すか」



─バシッ

打たれた頬が熱を持つ

口の端が切れて鉄の味がしたが、ユキは構わず続けた

このお方は知らなければならないのだ

政宗がどれほど傷ついているかを、政宗がどれほど貴女を愛しているのかを


それが私を遠ざけた理由

会って間もない私でも気づく程に強い願い



「ああ、政宗の恐れは貴女が原因だったのか‥‥」

「な、に?」



初めて屋敷で目覚めた夜に、抱き返した体が震えた

あれは自分を受け入れてくれないのではないかという恐れだ



「あの夜と同じに、例え母親がどうであろうと私は政宗を見るのに」



だがそれでも政宗が欲しいのは母親の愛なのだ

言ったらアイツは怒るだろうが



「愚かな義姫様。愛せないなら政宗の前に現れなければいいのに」

「黙れ鬼子、連れて行って打ってしまいなさい!」

「はっ」



控えていた家臣達がユキの腕を掴み連れ出す



「‥‥‥でも愛しているならそう言えばいい」

「黙って歩け」



それが会いに来た理由ならば









ドサッ

ユキは何とか自室に辿り着き、体を横たえた

打たれた体が痛い

せめて布団の上で寝たいと畳の上を這う

そこに近付く足音、部屋の前で止まってやがてユキの名を呼んだ



「ユキ、起きているか?さっきは大丈夫だったか?」

「政宗?大丈夫」



「‥‥入っていいか?」

「え、あ、駄目だ!その、もう寝るからさ」



慌てて止めるが、政宗は聞かずに入ってきた

傷だらけのユキを見て政宗の隻眼が見開かれる



「‥‥‥‥‥」

「ごめん、な?」


「っ、何がだ?」



謝るのはこっちの方だ!

叫び出したいのをこらえて、政宗は聞き返す

それを見たユキは困ったように俯いた



「政宗にそんな顔させるつもりじゃなかった。ただ、独りにしたくなかったんだ」

「‥‥彼処には母上も居たじゃねえか」


「あ、そうだな、そうだよなお母さん居たよな。ほんとごめん、反省して」

「You fool.」



政宗はユキの手を取った

打たれて痣になった場所を指がなぞる

思わず身体がビクついて、ユキは慌てたように言い訳を始めた



「大丈夫だ!この位の傷には慣れてるし、政宗に拾われる前は毎日傷だらけだったからな!酷い時は一日動けなかったし、これ位どうってこと」

「You fool!」



今は

今はそんな場所には居ねえんだぞ、お前は

お前は、俺の側に居るんだぞ


渋面をつくった政宗にユキはまた困ったような顔をした



「‥‥‥政宗、私は大丈夫だ。ちょっと義姫様を怒らせてしまった」

「sorry.ユキ。sorry.‥‥俺はそれでも母上を咎めることは出来ねえ」



違う、いいんだ

いいんだ、そんな事しなくていい



「それでいいんだ、政宗。私は鬼子で構わぬ。だから政宗は、人のままで居てくれ」



誰かを愛せる人間

誰かを守れる人間


憎しみ染まった心ではなく、愛で世界を満たしてくれ


ああ、きっと

政宗ならそれが出来ると信じられるから、私は側に居るのだ

それが信じられるから、これからも側に居るのだ





2010.6.29.

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