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歩む名を得る◆




名を寄越せと、アイツは言った

聞けば名を捨てたと言うのだ


そしてアイツは会ったばかりだと言うのに、何でも俺に話した

住んでいた村が襲われ、両親と幼い弟は目の前で殺された

三歳上の姉とアイツは女だから捕まったのだと、そして姉も殺されたと言う


全ては戦のせいだ

だからアイツは戦が嫌いだった




「政宗」



政宗が自室で戦支度をしていれば、今思いを巡らせていた本人が現れた

コイツは戦えるようだが、無理して参戦することはない

そう思って城に残るように伝えた筈だったが、何故かコイツは刀を帯びてそこにいた



「Ah?何してやがる?」

「私も行くぞ」



さも当然とでも言うように此方を見て、刀に手を乗せる

誰だコイツに刀をやったのは



「だが、お前、戦が嫌いだろう」

「嫌いだ。だからさっさと終わらせよう」



「‥‥‥使えんのか?」


刀を指して言えばニヤリと笑う





しかし次に出てきた言葉には拍子抜けだった



「わからない」

「Ha?なんだと?お前、なら何で刀持って戦場に」


「頼む」



それ以上は語らなかった

親兄弟を殺され行き場を無くしたから戦場に居たと言えばそうであり、だが刀を使えるかどうか分からないとはどういう意味なのか

あの日確かに刀を握る姿を見たというのに



「‥‥‥駄目か?」

「no problem.お前は俺に、黙って着いて来りゃあいい」



バサリと青い陣羽織を翻し、政宗が部屋を後にした











ガタガタと手が震えていた

ああ、あの時はどうやって此処に立って居たのだろうか?

脚だけは何とか支えて政宗の横に立っていた



戦が始まる





そうして敵陣に目を向けた途端に視界が炎で埋まった

慌てて目を擦るが炎は消えない、そして、だが、熱くはない

村を焼いた炎が、父を、母を、そして弟を、姉を

全てを喰らい尽くす



自然と刀に手が伸びて、その刀がいつの間にか目の前に来た敵の首筋に当てられた

ああ、赤い、紅い、全てが赤く染まっている

あの日のように、そうだあの日と同じに


気が付けば戦は終わっていて、近づく政宗に思わず刀を向けていた

小十郎がギラリと殺気を放つ

それに怯むことなく言葉を吐き出した



「名を寄越せ、伊達政宗」



生きる為の名前が欲しかった

昔の私なら、政宗に拾われたあの日に終わったのだ

死ぬ為に生きた私は死んだのだ



「政宗、名を」



お前と共に生きる為の名が欲しい

お前の為に捨てる命が欲しい


欲しい


欲しい




「‥‥‥‥ユキ、ってぇのはどうだ?」

「ユキ?ユキ、ユキか」



力が抜けて、刀を落とした

涙が出てきた



「どうしたユキ」

「‥‥‥いや」





ただ

嬉しいだけだ




2010.6.9.

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