[携帯モード] [URL送信]
お前が無事ならそれでいい◇



戦場を駆ける背に、こんなにも気を取られた事はなかった

そもそも親父は自ら先陣に立つことは最近では稀で、小十郎は大体俺の背後に居る

だがユキは違った

先駆けて雑兵を猟り、その手を、顔を、髪を、紅い血で染め上げる

まるで己に死が訪れる事はないとでも思っているように、ユキは余りにも己の命に無頓着だ



「政宗っ!」

「政宗様っ!!」


「!?」



─ザシュッ

右側からの斬撃に一瞬反応が遅れた

ユキが政宗を庇い、その身を地に埋めた



「shit!ユキ!」

「‥‥、大丈夫」



背中から鮮血が滴る

小十郎が敵を片付けている間に政宗はユキを助け起こした


致命傷じゃない


ほっと息をつけば、小十郎が戻って来た

ユキの傷を確かめて渋い顔をする



「馬鹿野郎、傷が残るぞ」

「政宗が無事ならそれでいい」



傷など何でもないように立ち上がり、ユキは辺りを見回した


俺が無事なら?

政宗はその言葉に憤った


ユキは出逢った頃に交わした誓いを守り続けているのだ

政宗がこの国を治めるまで、己が刃になり戦い護るのだと



「今日はもう終わりだな」

「‥‥‥Ah.」



もうすぐ夜の帳も落ちる

本陣へ帰ろうとユキが振り返れば、政宗がすぐそこに居た

政宗が傷に触れて、びくりとユキが震えた



「政宗?大した傷じゃないぞ」

「だが痕が残る」


「別にいい。嫁には行かないしな」

「行かねえのか?」



こんな男勝りでは貰い手がないと、ユキは笑って言った

本当は、幸せになどなりたくなかったからだった


馬を連れて来た小十郎に呼ばれ政宗が馬に乗ったことを確かめると、ユキもその脇を歩き出す

ふと、政宗の手がユキの腕を掴み上げた



「、っ」

「大人しくしてろよ、ユキ」


「、、、汚れるぞ?」

「気にしねえよ」



幸せだと思った

政宗が居れば幸せだった



だから、やっぱり

政宗が無事ならそれでいい




2010.6.6.

[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!