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「‥‥‥‥」



気が付けば、見知らぬ天井を見上げていた

天井であるにも関わらず磨き上げられたそれは、自分が住んでいた家などではない

美しく細工された、武家屋敷によく見られる様式だ



「‥‥、?」



かなりの違和感を感じてガバリと身を起こした

なんだ、此処は

そう思って立ち上がり、体を見下ろせばまた違和感



「なんだ、これは」



見たこともない綺麗な着物

これも自分のものではない

どういうことなのか全く理解出来ずにキョロキョロと辺りを見回した



─ビュッ ヒュンッ


ふと、ユキは障子の向こうから聞こえてくる音に気付く

そっと障子に隙間をつくれば、見えたのは少年が木刀を振るう姿




「‥‥‥‥」




綺麗だ





一心不乱に木刀を振るう姿に見惚れる

誰だろう?


思って、今度は完全に障子を開いて少年を見た

それに気付いた少年がこちらを振り返る





隻眼



「よぉ、気分はどうだ?」

「久しぶりによく眠れた」



いつからか野山で、なし崩し的に眠ることしかなかった

いつも独りきり

凍える朝に目を覚ました



「Huh.」



少年は目を細めた

その表情にすら強く惹かれ、ただ目を反らさずに少年を見つめた

何故、惹かれるのだろう

その一つきりの瞳の中に答えを探そうとするけれど、何故、その奥に見えたのは仄暗い闇

自身の瞳の奥と同じに、もしかしたら深く暗い、深淵の闇が少年の隻眼にはあった



「‥‥此処はどこだ?お前が連れて来たのか」

「Yes.そうだ。お前こそ彼処で何してた?戦場で」



ふと少年、政宗は思う

愚問であったと



「‥‥‥‥殺さなくちゃ、いけないんだ」



呟いて、その双眸に闇が落ちる



「殺さなくちゃ、みんな、死んじゃうから」

「sorry.もういい」



政宗は少女に近付いた

微動だにしない少女の隣りに立つと、自分の胸に顔を埋めさせる



「な、なに」

「泣け、胸を貸してやる」



泣け?

なんだこいつは?

私がこんなよく知りもしない奴の胸を借りるとでも思ってるのか?



「‥‥‥‥」



頭の中の考えとは裏腹に、瞳からは涙が流れ落ちた

何故、なぜだ

何故こいつは私にこんなことを言う?



「お前は、馬鹿なのか?」

「Ha!随分な物言いだな」



言って政宗は少女の肩を強く抱いた



「俺の、‥‥‥側に居ればいい」

「‥‥‥お前」



「俺は伊達政宗、伊達家の跡取りだ。俺がこの奥州を取る」

「(あぁ)、‥‥そうか」



そうか

政宗の片目を見上げながら、少女は気付く

政宗が自分を拾った訳も、奥州を取ると言った理由も



「お前の側に居よう」



言えばびくりと政宗の体が揺れた

怯えていたのか?

今度は逆に抱き締められた政宗が、少女の顔を見下ろす



「見せてくれ、お前の作る国を」

「okay.」



自信たっぷりに微笑んだ政宗に、少女もまた微笑んだ

月は白く輝いている




2010.5.28.

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あきゅろす。
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