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海の漢◇



ユキは十日程かけて四国へと赴いていた

関東までは船で、その後は馬で来たが、街道をそれて来たので時間がかかったように思う

何も言わずに来たから、今頃政宗はかんかんに怒っていることだろう

そんな政宗の姿を思い浮かべてクスリと笑う



「よぉ!随分早かったな」

「久しぶりだな、長宗我部」


「元親でいいって」



何となく近親感を感じるこの男も、鬼と呼ばれる戦国の猛者の一人である

同じ白髪であることもあり、元親もユキに近親感を抱いていた

その元親はユキを自分の船に案内しながら、思ったことを口にした



「こんな時期に来るなんてな。独眼竜と喧嘩でもしたのかよ」

「いや、私が来たのがそんなに可笑しいか?」



不思議そうにしたユキに、元親は次いで胸に浮かんだ疑問を飲み込んだ

"竜がお前を側から離したのか?"


言葉に詰まった元親から海に視線を変えて、ユキは言った



「九州へ行こうと思うんだ」

「九州って、何しに行くんだよ?」



九州なんて場所になんの用があるのか?

そもそも四国くんだりまで来た理由すら分からない

浮かんで来るのは疑問ばかりで、元親は視線を外せずにいた



「九州は奥州から遠い。中でも南端の島津は政宗の顔も知らないだろう」



元親に振り返ったユキは笑った



「心配するな。ただの様子見だ」

「ならいいが‥‥‥」



竜の白夜叉と恐れられるユキのことも、島津の人間は知らないだろう

つまりはそういうことだ

ユキを恐れる者は居ない



「長宗我部は島津とも取引があるだろう?船で送ってくれないか?」

「送っていくのはいいが、どうする気だ?お前を伊達の人間だと分かる奴は居ねえんだぞ」


「好都合だ」



ニヤリと笑ったユキに嫌な予感を感じずには居られない

だが同時に政宗に感じたような可能性も感じていた



「オイ、無茶すんじゃねえだろうな?とばっちりは御免だぜ」

「心配するな。ちょっとお邪魔するだけだから」



ああ、ヤバい

ヤバいがどうしようもない




2011.11.26.

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あきゅろす。
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