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もう少しだけ、人間だったなら◇



気がつけば、出会いから十数年の時が経っていた

お互いに走りつづけた同じ道が、奥州王・伊達政宗の天下統一という形で、恐らく、途切れた

十分だ

ユキはそう思っていた



「What?何がなんだって?」

「旅に出る」



まるでちょっとそこまで、といった物言いのユキに政宗は怒りを覚えた

やっと終わった

なのにお前が居なくなるのか



「だから何で旅に出るんだよ」

「ちょっとした遠出だ。いつ帰るかは分からない」



まるで本当にそこまで出掛けるだけだと言いながら、もう帰らないとユキは言った気がした

何故

どうしてだ

なんでユキが居なくなる?



「ユキ、」

「失礼致します、政宗様、岩沼の領主が謁見を求めて参っております」

「Ah?」



こんな時に

そう思って振り返った時にはユキの姿はなかった

水を浴びせられたようにハッとする



「政宗様?」

「後にしろ!」



部屋を飛び出し、ユキの部屋の障子を乱暴に開いた


何もなかった

ユキの使っていた物も、その姿も


何も残してはいなかった

政宗がユキに買い与えた物も、文のひとつも

蛻の殻(モヌケノカラ)だった



「Ha!?」



何だってんだ、一体

政宗は屋敷の中にユキの姿を見つけられず、とうとう馬で領内を探し出した

それを小十郎が追うが、いくら探してもユキは見つからない







その頃、ユキは港に居た

乗り込む船は決めてあり、その船に揺られながらユキは考えていた



殺しすぎた

血に濡れた女を、政宗の側近くに置くわけにはいかない

統一が成され、多少の小競り合いはあろうとも、政宗と同盟を結んだ武将達がすぐに解決するだろう



「‥‥政宗」



ポロリと、涙が零れ落ちた

びっくりした


もうこれで、戦わなくて済むのに

もうこれで、家族を失う者は居なくなるのに


それを、望んでいた筈なのに

どうして私はまた、ひとりぼっちなのだろう?



『ユキ』



政宗が、悲哀も同情もない声で呼ぶ

もう少しだけ、人間だったなら



「私が」



もう少しだけ人間だったなら

政宗と共に居られただろうか

政宗と共に、走れただろうか


だけど

互いに走り続けたその道が、今、確かに

途切れたのだ




2011.8.1.

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