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弱くて死にそうだ◇



ユキは思った

例えば政宗が天下を統一したとして、自分が此処に居る意味はその後もあるのだろうか?

例えば政宗が正室を迎えたとして、女の自分は彼女に不快な思いはさせないだろうか?


ずっと昔から考えてきたこの事柄にも、そろそろ結末を与えなければならない

けれど、と

真田幸村と対峙しながらユキは思う



「どう思う?真田」

「どうと言われても、拙者にはユキ殿はそれから逃げてきた、としか」



言い得て妙な、しかし的確な幸村の指摘に口角がつり上がる



「そう、そうなんだ。逃げてきた。だから私はそろそろ答えを出しておきたいんだよ、真田」

「ユキ殿の答えはやはり、政宗殿の元を去る事で御座ろうか」



心配げに下がった眉毛にユキは先程とは違う笑みを浮かべた

優しく、強い男だ

ユキは刀を抜いた



「私の腕ではお前に適わない。政宗が出れば必ず怪我をする」



だから、と

ユキは上着を脱いで肌をさらした



「っな、な、は、破廉恥っ!!」

「晒は巻いているだろう?噂通りだな」



これ位のハンデは貰わないとどうにも分が悪い

顔を真っ赤にして慌てている幸村にまた笑って、ユキは刀を構え直した



「私はお前の足止めだ。信玄公の所には行かせぬ」

「!」



甲斐の虎の名前を出した途端、幸村の顔色が変わった

拙かったか

小十郎と練りに練った作戦の一部に、綻びを作ったかも知れない


ユキはもう一度、刀を握り直した









その日の夕刻になっても、ユキは地面に倒れ込んでいた

ギリギリまで足止めしたものの、昼過ぎには幸村に倒されてしまった

殺されなかったのは情け、同情、あるいは幸村の優しさか



「ユキ」



呼ばれて目を開ける

もうクタクタだ



「首尾は?」

「All right.」



手を差し出されて素直に取れば力任せに引き寄せられた

政宗の体に傷がある

やはりというか当然だが、虎を二匹相手に無傷では居られなかったか


それに顔をしかめれば、政宗もユキの恰好に顔をしかめた



「なんで、着物」

「ああ、真田にハンデを貰っただけだ」



全然気づかなかったが、赤い羽織りが掛けられていたようだ

律儀な男だと思って、ユキは多少足を引きずりながらも歩き出そうとするが政宗が手を引いた



「政宗?行かないのか?」



振り返ってみても政宗は動こうとしない



「何か問題でもあったのか?」

「‥‥No.」



では、なんだ?

ユキは政宗を見つめる


うん?

ああ、そうか



「政宗」



幼い頃とは違い、やたらと大きく成長した政宗を屈ませる

ぐしゃぐしゃに頭を撫でてから思いっ切り抱き締めた



「よくやった!凄いぞ政宗!」



一番のライバルを倒した

誉めて欲しかったんだろう?


これで天下統一の足掛かりは完了した

あとは残りの武将達がどう動くかということだ



「いこう、政宗」



ユキが体を離して手を差し出す

それにやっとホッとして、政宗はユキの手を握った



言えないだろう

怖かっただなんて


遠目に見た赤い羽織りが血に見えた

血の気が引いた

手が震えた



お前の死が怖かった









ああ、弱くて死にそうだ

2011.7.27.

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