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竜の白夜叉◇



伊達家を継いだ政宗は、やがて奥州を平定し、奥州王と呼ばれた

その傍らには右目である片倉小十郎

そして、白髪の夜叉


白夜叉と、ユキは呼ばれていた




「ユキ」

「越後の昇り龍とやらも、ただの蛇になるのは時間の問題だ。虎の方は静観していると片倉様の報告があった」



そうだ

奥州を平定した政宗は、いよいよ天下へと手を伸ばしたのだ

今は上杉謙信の首を穫らんと、越後へ兵を向かわせていた



「信長が死に、この国は随分と長い間ぬるま湯に浸かっていたな」

「Ah.」



星空を見上げ、月がユキの姿を浮かび上がらせるのをただ見ていた

戦装束のユキは美しい

ただ敵の首を穫る為だけに存在するのだと、そう主張しているように見えた



「okay.そろそろ頃合いだな」

「ああ、忍の方は私が引き受けよう」



戦は夜陰に乗じて開始された
思ったより長く掛かったが今夜が最後だ

越後攻めは今日で終わる









昼前には片がついた

殺したりはしない

それ程に政宗は力を付け、そして天下統一に乗り出したのだから



「おうしゅうおう、いえ、とうとうりゅうがてんにのぼるのですね」

「Ah.次は甲斐だ」



上杉謙信と対峙しながら、政宗は不適に笑いそう言った

謙信は思う

政宗こそ新たな天下人に相応しい人間なのだと



「わたくしはいんきょいたしましょう」

「謙信様っ」


「わたくしのうつくしいつるぎ。そなたがいればそれでよいのです」

「け、謙信、さま」



ユキは寄り添う二人に見入っていた

政宗の居なくなった部屋で、謙信はユキに声をかけた



「りゅうのしろきやしゃ‥‥」

「お前達は夫婦になるのか?忍を妻にするのか?」


「ばっ、貴様っ、ななな何を言っているのだっ」

「隠居すれば、身分は関係ないのか?」




その質問に謙信は柔らかに微笑む



「いんきょせずとも、つるぎはわたくしのつるぎ。りゅうもあなたのとなりで眠るのでしょう」


「‥‥私は政宗の刃だ。お前達とは違う」



部屋を出ようと立ち上がる

微笑んだままの謙信がユキを目だけで追った



「ユキ、といいましたか」

「ああ」


「りゅうはあなたをえて、てんにのぼる。それはかえられぬじじつ」



謙信の言葉にユキは不機嫌そうに眉を寄せた

足を止め、振り返る



「私が居なくとも、政宗は天に昇る」

「‥‥りゅうのみぎめがしんげんこうをあしどめできるのも、あなたがいるから。なればこそ、あなたがりゅうの」

「話が過ぎるな、上杉謙信。さっさとその忍と共に山にでも籠もるがいい」



ユキは今度こそ部屋を出た

その背中を見送って、かすがが熱り立つ



「アイツ、謙信様になんて口をっ」

「よいのですよ」



隣りあって座るかすがの顎に手を掛けると、自分の方へ向かせる



「わたくしのつるぎ、かのじょもいつかきづくはずです。それまでともにみまもりましょう」

「は、はい」



ユキは苛立ちながら廊下を進んだ


私が居るから、片倉様は武田信玄の足止めに向かったのか?

否、私が務めているのは片倉様の替わりではないし、私が居なくとも政宗は越後を堕としただろう

そうだ

私は政宗の刃



替わりは幾らでもきく刃なのだ




2011.6.29.

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あきゅろす。
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