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泣かないで、政宗◆



出会ってから一度目の夏、政宗の誕生日がやってきたらしい

らしいというのは人伝に聞いてさえおらず、ただ城の中の雰囲気から読み取ったものだったからだ

ユキは焦っていた

何とか自分も祝いたいのだが、何しろ金子を持ち合わせていない

悩んでいる間にも周りの準備は進み、お父上に呼ばれていた政宗ももう此方に戻るだろう



「‥‥‥‥よし」



ユキは立ち上がり、弓を手にして部屋を出た

見つからないように城を抜け出して山に登る


ただ誰にも言わずに出たのは失策で、夜になってもユキは城に戻らずに騒ぎになった



「どういう事だ!?」

「ユキは城を出たようです。黒脛巾組の者が確認しております」



逃げたのか?

いや、理由がない


俺を、



「嫌い、に」


なったのか?

ドクンと、自分でも驚くぐらい心臓が震えた

思わず探しに出ようとして小十郎に阻まれてしまった



「政宗様!私共にお任せ下さい」

「Shut up!邪魔するんじゃねえよっ」



立ちふさがる小十郎を睨み据え、政宗は焦りを隠さず苛立ちをぶつけた

そうだ、邪魔をするな

俺の前に立つな

そんな暇があるならユキを連れて来い!



「片倉様、政宗?怒鳴ったりしてどうしたんだ?」

「ユキ」

「‥‥‥ユキ、お前」



ユキは弓を片手に、もう一方の手にはうさぎを抱えていた

対面して睨みあう小十郎と政宗に、首を傾げていた



「どうしたはこっちの台詞だ!何処行ってやがった!?」



掴み掛からんばかりの政宗に困惑し、取り敢えずとうさぎを政宗に差し出した



「なんでうさぎ‥‥」

「誕生日だろう?お金ないから鹿でも仕留めたかったんだけど、‥‥ごめん。うさぎになった」



誕生日

そうだ、今日は俺の



「誕生日おめでとう、政宗」



言われて思い切り脱力する



言葉にもならなかった

柔らかすぎる

この感情は




2011.5.23.

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