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俺の鬼だ◇



弓と、刀と、

ユキは政宗が思っていたよりも多くの武功を立てていた

それは先陣を切りたがる政宗の更に前を行くからなのだが、最近では獲物を横取りするなとユキに言って横に並ぶようにさせた


だが戦の中のユキはまさに鬼神の如く

例えその身に血を浴びようと、怯む事無く突き進んでいく


政宗は時々、ユキを座敷牢にでも閉じ込めておきたくなる


そう考えていた所に、良いのか悪いのか、こんな話しが舞い込んだ



「筆頭、ユキ殿をいただく訳にはいきませんか?」

「Ah?‥‥何でだ」



余りにも突飛な話しに政宗は驚いた

素直に理由を聞いてやれば、興奮したように話しだした



「先日の戦での働き、目を見張るものがありました。殿にも負けぬ刀捌き、弓も的を外さぬと聞き及んでおります」

「‥‥で?」


「その、恥ずかしながら、一目惚れを」



男が年甲斐もなく顔を赤らめた時、ちょうどユキが廊下を通った

政宗はそれを呼び止めて簡単に子細を伝えてやる

政宗の右隣に座ったユキは、男を見やった



「お受け戴けませんか?」



それには答えず、ユキはただ面倒くさそうに座ったままだ

見かねた政宗が助け舟を出してやる



「こいつはお前に一目惚れしたんだとよ」

「一目惚れ?どこに」



今まで興味の欠片もなかったユキだが、驚いたように聞き返した

そうすれば男も先程政宗に告げた言葉を繰り返す



「ユキ殿の!殿にも負けぬ刀捌き、敵をものともしない鬼神の如き働き、それがしは深く感銘したのです!」



言い終えた男にユキは微笑んだ

勘違いした男が笑顔になると、ユキは笑い出した



「はっ、ふははっ、あはははははっ」

「、ユキ殿?」



腹を抱えて笑うユキに男が困惑したように問いかける

ユキは何とか顔を上げると、その口角を上げながら嘲笑うかのように問い返した



「鬼が嫁に欲しいのか?物好きも居たものだ!」

「それがしは真剣にっ」



─シャンッ

鈴の音のような音の後、男の頬に風が吹いた

いつの間にか首筋に刀が添えられていた



「私は血に狂った鬼だ。政宗が居なければ、見境無くお前も殺す」

「‥‥っ、」


「だから止めておいた方がいい。嫁の話しはお断り致します」



男が何か言う前にユキはさっさと出て行ってしまった

後には茫然とした男と、満足そうに笑う政宗が残されるのみ


答えは最初から決まっていたのだ



「‥‥筆頭、私はそれでもユキ殿が欲しいのです」



諦めの悪い男だと、政宗は心中で嘆息した

何を引き換えにされようと、誰を質にされたとしても、ユキは政宗以外に従わないだろう

そして政宗にも、ユキを余所にやる気など有りはしない



「物分かりの悪りぃ奴だぜ」



政宗は男を冷ややかな目線で一瞥した



「あれは俺の鬼だ。分かったら帰んな」



愛してくれる誰かに嫁ぐ

そういう女の幸せを、ユキに与えても良かったのかも知れない


血も、戦も、殺戮も無い

そんな世界に送るべきだったのかも知れない



だがあれは俺の鬼だ



これ以上話しはないと、男を残して部屋を出た




2011.4.3.

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あきゅろす。
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