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厭わぬ刃◇


「何を言っている?忘れたか、あの日の誓いを?私はお前の刃、人ではない。例えお前が使い捨てようと構わないし、斬って捨てようと何も感じぬ道具。それが私の望み、私の意志」



そこまで一気にまくし立てたユキは政宗の表情に閉口した

どこか愕然とし、傷ついたような

あるいは絶望すら孕んだ、



「政宗‥‥?」

「お前は、生きる気はねえってのか」



その問いの答えは随分前に出ていた


私は、英雄にはなれない

ましてや女の身で俸禄を戴く武将という訳にもいかないだろう

そしてまさか、今更誰かの嫁になる訳もない


つまり、未来などない



「私の命は政宗の物だ」

「生きろと言えば生きるのかよ」



そういう事じゃない

分かっているから政宗も渋面をつくる



「私は政宗の刃、自らが折れることも厭いはしない。その中で私は多くの血を浴び、多くを殺すだろう」

「俺だって同じだ」


「違う」



ユキは真っ直ぐに政宗を見つめて言った



「政宗は平和な世をつくる。そこに刃は要らない」



そうだ、そしてこの世に平和が訪れたとき

この刃も折れよう


平和な世に必要なのは血塗られた刃などではなく、導き手、そしてそれを支える者達

その手に握られるのは刃ではなくお互いの手なのだ



「政宗、覚えているか」



ユキは憤る政宗の手を自分のそれで包み込んだ

そして強く握る



「お前が私を拾った時、私は死んでいたようなものだった。お前に名前を貰って、お前の為に生きる命を得た」



そうして芽生えた望みに今更気づいた

政宗と共に歩み続けたい

政宗が天下を統一したその先の未来も共に歩みたい



「ありがとう、私は幸せだ」

「ならなんで、自分はもう死ぬみてえな言い方する?」



黙って手を握られていた政宗がユキを睨みつけた

それとは裏腹にその隻眼は不安げに揺れている



「俺の為の命なら、俺の側に居ればいい。俺に従え、俺以外に」

「政宗、言っただろ?私は政宗の物だ」



何処までも平行線の話しに、政宗はやっと口を閉じた

ユキはただ、僅かに微笑んだ





厭わぬ刃
2010.11.21.

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あきゅろす。
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