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傷痕で爪研ぎ◆



刀傷など、そうそう作るものではない

ユキはひりひりと痛む背中の傷に顔をしかめた


戦に参戦するようになってまだ日が浅い

この日も小競り合いではあるが、奥州の南へ政宗と共に出向いていた



「来い、血を止めるぞ」

「え」



ユキが付いて来るのも確かめず、政宗は踵を返して夜営地へ戻っていく

もう日暮れで今日の戦は終わりだ

撤退命令を出し明日に備える



「政宗!まだ」

「いいから行け。ここは俺がやる」



小十郎にも追い立てられて、ユキは政宗の後を追った


夜営地と言っても陣幕で囲った程度であり、普段ならば近くの出城などに本陣を置く

今回は政宗の父親である輝宗の本隊が城に居て、政宗の分隊が別に動いていたのだ



「政宗」

「人払いはした。来い」



素直に近寄り政宗に背を向け、言われるままに着物を脱ぐ

ユキは動きにくくなるのを嫌う

戦場で鎧は付けていなかった

白い背中に傷が斜めに走り、血で汚れていた




「‥‥‥‥」

「‥‥っ、いっ、まさ、む、ね」



ぐりっと政宗の人差し指が傷口を広げ、余りの痛さにユキが悲鳴を漏らした

声を上げるユキに煽られて、政宗はそのまま傷をなぞる



「‥‥‥政宗、っ、あ゙、ぁっ」



ば、馬鹿野郎!

痛すぎてユキの双眸から涙が落ちる

ポロポロ、ぽろぽろ

文句を言おうにも政宗の手が傷口から離れずにただ耐える

そこに突然消毒の為の酒を吹きつけられ、背中が熱くて溜まらなくなった

自ら治療をしてくれるのは有り難いが、政宗の治療はいつも荒っぽく傷口も広げられた

独占欲かとも思う


血を拭き取ると布を当て、傷が広範囲なので大きな布を体に巻きつけた



「終わったぞ」

「い」


「い?」

「痛ったいんだよ!傷口広げてどうする!?」



もしかしたら戦よりも体力を使う政宗の治療

ユキは振り返り様に政宗の頭を叩いてやった



「てめーっ、主君の頭を叩く奴があるか!?怪我する奴が悪りぃんだよ!」

「私の傷の治りが遅いのは政宗が傷口広げるからなんだからな!!馬鹿!」



ぎゃいぎゃいと騒いでいればユキの換えの着物を持って小十郎が現れる

バサリとその着物をユキにかぶせると一括された



「ユキはさっさと着替えねぇか!政宗様もこのような場所でお戯れはおよし下さい」

「sorry.だが」


「政宗様」

「HaHa!」



政宗が小十郎に諌められているのを笑うと、ユキの頭に小十郎の拳が乗る

それに青ざめたユキはさっさと着物を着込んだ



「でも片倉様、いくら私でも傷痕で竜に爪研ぎされたら適わない」



そう言うとユキは政宗の左手に座った

今日の戦の後片付けももう終わる頃

明日の為に軍議が始まる




2010.11.12.

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あきゅろす。
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