8:ちょっと顔にGがとまっちゃったもので
「っ、は」
―ド ドカッ ガッ
唇が離れた瞬間、手と足が出た
平手打ちしようとした手は受け止められた為、膝蹴りで距離を開けて、逆足で蹴りを鳩尾に埋める
それでもその足を掴まれてしまった
「てめぇっ」
「離せっ、痴漢っ」
掴まれて離れない足を支えにして、その逆足を振り上げた
これにはザンザスも両手を使うしかなく必然的にコユキは自由になる
「っ、」
「お前なんて死ねぇっ」
ポロリ、涙
まだ向かってくるかと思われたコユキは、見物人達の頭を踏み越えて出て行ってしまった
"猿みてーな奴"
スクアーロの言っていた言葉を思い出した
「さて、」
騒ぎも終了したと、九代目は立ち上がった
ざわめく聴衆を片手で宥めてにこりと笑う
「どうやら息子も心に決めた女性を得たようです。予定よりかなり早く終わったようですから、皆さんはパーティーを楽しまれてからお帰り下さい」
この発言には更に会場がざわめいた
だがザンザスが睨めばシンと静まりかえり、会場は諦めムードに包まれたのだった
その頃、
信じられない
あの馬鹿、阿呆、痴漢野郎っ
「追加よ!」
「うあいっ」
会場から飛び出したコユキは、メイド服を着ていたせいで皿洗いに捕まっていたのだった
今まさにパーティーの真っ最中ということもあり、大量に洗い物があって尽きる事がない
―バシャアッ
「な、なにやってんのあんたっ」
洗い物の中に頭を突っ込んだコユキに、皿を持ってきた給仕長らしき人がうろたえる
コユキは顔を上げると水を滴らせながら苦笑いをする
「ちょっと顔にゴキブリが止まっちゃったもので」
「え、あ、そう」
そう言ったコユキがあまりに悲壮だったのか、それ以上は何も言われなかった
―ガチャ
最後の一枚まで洗い上げて、コユキはうなだれる
あの痴漢野郎っ
全部、全部あいつが悪いっ、ファーストキスだったのにっ
「バカみたいだ」
自分がドラマのヒロインだったらさ、指さして笑ってやるのに
実際にんなことあるか!ってさ、あったけど
つうか自分がファーストキス如きでこんなにへこんでる事に驚愕であるわけで、この私にも乙女な部分が在ったのだと更に驚愕
う、あ、あ、また思い出した
やっぱりキスする時はあんな奴でも目を閉じるんだとか、ちょっと唇荒れてたとか、知らなくていいことばっかり
あと、顔に残ってる傷とか(首まで傷があった)
なんで、あんな傷‥‥
暗殺部隊のボスだからでかたずけていいのかな?
駄目だ
ザンザスのことばっかり考えてしまう
どうやって寮まで帰るか考えなくちゃいけないのに
だが皿洗いをしている内に夜中になってしまったので、今は寝床を探す事に決めた
この大きさなのだから客間は山ほどあるだろう、が、コユキがいる辺りは大きめの広間(会議でもするのだろうか?)があるばかりだ
「おい」
「ぎゃあっ」
真横からかけられた声に思わず大声を上げると、口元を抑えつけられた
黙れと言うように腕も捻り上げられる
「大声出すんじゃねぇ」
耳元で囁かれた声にゴクリと息を呑んだ
次の瞬間、さっきの悲鳴を聞きつけたのか数人の男が現れた
「これは、ザンザス様。何か御座いましたか?」
「消えろ」
一言そう言えば男たちは一礼して部屋を出て行った
チラリと視線をこちらに残して
「それで、なんでまだ此処に居る」
「そそそそれは、あの〜」
ち、近い近い!
腕を抑えつけられたまま壁に押し付けられる
つーか、痛いって!
「怒ってんのか」
「お、怒って?なんかない、けど」
そうだ、もう落ち着いた
そう答えたら腕が解放され、くいと顎を持ち上げられる
あ
「‥‥‥ん‥」
やっぱり、少し荒れてる
ドキドキどきどき、胸がうるさい
こいつと喧嘩したあの時はこんな風にキスするなんて知らなかった
ていうか出会って2日だっていうのになんでこんな事になってるんだ!?
「あんたは、何でこんな事する?」
「知るか」
顔は見れなくて、うつむいたままだった
ずいぶん乱暴な答えに顔を上げれば、ぐいと腕を引かれる
そうして連れて行かれた先には部屋があって鍵を渡された
「テメーの部屋だ。こっちに来る時はここを使え」
「え?なに?」
今日の寝床ができたと素直に鍵を受け取りつつも、気になることは口にする
するとザンザスはニヤリと笑ってまた口付けてきた
「!‥‥ふぁ、ちょっ」
「テメーは俺の許嫁になった、当然だろう」
ん?へ?は?
何だって?
きょうだけで3度目のキスの後に信じがたい事実を聞いた
誰が誰の何だって?
その質問は口にできないままコユキはザンザスに置き去りにされた
2009.5.17.
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