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9:甘甘甘の苦





眠れなかった

シャワーで眠気を追い払いながらコユキは顔を両手で覆う



「‥‥許嫁」



いいなずけ【許婚・許嫁】 結婚の約束をした相手。婚約者。フィアンセ。「いいなづけ」も許容。


意味を調べたってどうにもならないってのに、コユキの手には辞書

シャワーから出て最初にすることがこれ?


ガンガン机に頭を打って、夢よ醒めろ〜!とか思ってみるけど痛いだけで何にもならない



―ガチャ


急に背後のドアが開いて、びくりと振り返る

そこにはザンザスが居た



「ん、な」

「まだ着替えてねーのか?」



なんの躊躇もなく部屋に侵入して来るザンザスにコユキは警戒して距離をとる

が、すぐ後ろが机だったために追いつかれてしまった



「もう学校の時間だぜ?」

「ちょっ、触るなって!」


着ていたバスローブの襟に手を掛けられて、思いっきり突き放そうとする

それでも力で適うわけがなく首筋を開けられる



「‥‥なかなか、綺麗じゃねえか」

「!?」



は?

言われた言葉の意味が一瞬分からず、コユキは狼狽する

思わず掴んでいたザンザスの服を握りしめると、顔が近くなった



「!」


―チュッ



鋭い痛みとは裏腹に恥ずかしいような音がして、ザンザスが首筋から離れる



「着替えたら下に来い」



う、ううぅ

閉まる扉を見送りながら、コユキはへたりと床に座り込んだ










制服に着替えて下に降りると、すでに車が用意されていた

コユキが遅かった為に朝食は車の中に用意されている



「早く乗れ」

「、うん」



車に乗り込んで(すごく広い!)ザンザスの斜め前くらいに座ろうとするが、其処じゃねえと腕を引かれた

私はいま、ザンザスの隣りに座っている


用意されたサラダをつつきつつ、ザンザスの腕が腰に回っているのを甘受していた

そもそも何故に一緒に車に乗って恋人ばりにいちゃつかねばならないのか?

そもそも許嫁なんて親が決めただけであって、なんでこんな恋人みたいな事を



「よこせ」

「え?」



返事をする前にフォークを持っていた手を掴まれて、ザンザスにサラダを奪われる

うわ、ちょっと、そういうの無し無し!



「ちょっ、恥ずかしいなぁ、もう!」

「何がだ?」



ザンザスは気にした風もなくサラダを飲み込んだ

それからパンをよこせとか、コーヒー淹れろとか、とにかく言いたい放題だったのだが何とか学校に着いた

やっと解放される



「終わったら俺のとこに来い」

「え、なんで」



って言ったら睨まれました

だけどいい加減に解放して欲しいわけです



「迎えをやる」

「え、ちょっ、待ってよ!」



車を出ようとするザンザスを引き止めた

腕を引かれたザンザスがわざとコユキに覆いかぶさる


背もたれに背中がぶつかった



「っ‥‥ぁ、ふ」

「‥‥‥迎えをやる」



唇が離れる瞬間、囁かれた

顎をひと撫でして今度こそ車を後にする


ドッドッドッドッ

心拍数が普通じゃない

ミランダを殴り、自分を押さえつけた時の横暴さの中に優しさ


でも、騙されちゃ駄目だ



だってザンザスが私を気にいる理由なんて一つも有りはしない

弄ばれるなんて私のプライドが許さないんだから




2009.6.16.


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