1:私、自立します。
あーら、本当にどうしたものかしらこれは
馬鹿でかい学校の、馬鹿でかい門を前に、コユキはカバンを胸に抱いて呆れ返っていた
此処はイタリアにある普通(絶対違う!騙された!)の学校で、コユキは今日からここに通うことになっていた
そもそも両親が一人暮らしは心配だと呼び寄せたのが事の発端なのだが、すでにコユキは5年も一人暮らしだったのだ
今更という気もしたが、父に泣かれては断ることが出来なかった
まったく厄介極まりない父親だ
うん、本当に迷惑だ
その父親の顔を思い出して、コユキは足下にあった石を蹴り上げた
絶対ここ普通の学校じゃないよ!
「ギャッ、」
「ビクッ」
石を蹴り上げた方向から悲鳴が聞こえて、コユキは肩を揺らす
げ、人に当たった?
やーだ、ナイスキック☆
なんて言っている場合ではないと思い、コユキは謝罪しようと門の中に入った
が、そこにキレまくった人物を見つけ思わず建物の中に飛び込んだ
逃げ足だけは速いのさ
「う゛ぉおい、誰だぁっ!?」
外を探し回る男を見なかったことにして、コユキは不審者を見る目した受付の女性に振り返った
「違うんです。決して外の人とは無関係です。コユキ・ミルシャンです。私転校生なんでよろしくお願いします」
名前をちゃんと名乗ってやっと信用してもらって、コユキは寮に案内して貰えた
それにしても本当に馬鹿でかい学校だった
中庭というより庭園、学校というより城
おおよそ日本の一般的な学校に通っていたコユキはその大きさに迷子の心配をしてしまった
それにしても本当に腹が立つ
父も母も絶対に何か隠し事をしているに違いないのだ
でなければ一人暮らしが心配だなんて嘘臭い理由でイタリアに呼び寄せたりしない
心配なら空港に迎えに来てもいいだろうし、寮に入れないだろう
おかしい
絶対におかしいのだ
―ピピピピ ピピピピ
「はいはい、コユキです」
『あ、コユキ?パパだよ〜』
―ピ
―ピピピピ ピピピピ ピ
「はい」
『非道いよ〜、コユキ〜!いきなり切るなんて〜』
もう一度切ってやろうかとも思ったが、話が進まないので我慢した
いつもこうなのだ
付き合っていたら本当に・まったく・一歩も・前に進まない
「で?」
『ちょっ、コユキ。今のグサッときた!パパすごくグサッときた!』
「で?」
繰り返すと鼻をすする音がして、コユキはデッカいため息を吐いた
そして若干、棒読みで言葉を紡ぐ
「どうしたのパパ?何か用事があったんでしょ?」
『うん、そうなんだ。実はね‥‥』
そこから先の話しは出来れば聞かなかったことにして戴きたい、是非とも
思えば一人暮らしする羽目になった時もそうだった
何かと言えば自分勝手に行動する両親は、イタリアでの仕事ができたからとコユキを置いて突然居なくなった
そして5年経ったらこれだ
イタリアに呼んだのはやはり、一人暮らしが心配だからじゃない
まぁ、イタリアと日本という距離的には多少気にしたようだが本当の理由はこうだ
『コユキ、マフィアの花嫁さんにならないかい?商談相手の方にそういう話しを戴いてね』
「なんて、応えたの」
嫌な予感というよりも、確信があった
いつもいつもいつもこうだ
コユキの意思なんて関係なく何でもかんでも勝手に決めてしまうのだ
『うん、お受けしたよ。いや、正確には花嫁候補だからね、嫌な男だったら断ればいいんだよ?そうそう、彼もその学校に通っててね?しかもあのボンゴレのボス候補なんだ!もし本当に結婚することになったらコユキ、玉の輿だぞ〜!』
延々と父親の演説を聞きながら、コユキは思った
自立しよう
完全に自立して、早く自分の人生を歩もう
つーかボンゴレってアサリ?
貝?
『コユキ?聞いてる?あ、そう言えば相手の名前はね〜』
「もういい。わかったから」
今度こそコユキは電話を切った
もういい、本当に
電源も切って、コユキは荷解きを始めた
日本からは必要最低限の生活用品しか持って来ていない
だから明日は学校が終わったら円を換金して買い物に行こう
それから仕事も探そう
一人部屋であるそこは、すごく広く感じた
日本では一軒家に住んでいたというのに、此処が知らない土地だからかものすごく心許なかった
ああ、今更だけど相手の名前くらい聞けば良かった
顔も名前も知らないんじゃ断りようがない
そんな事を考えて、コユキは重い体をベッドに投げ出した
2009.3.12
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