冬の朝の匂いは
冬の朝の匂いは好きだ
空気の冷たさに気持ちが凜とするし、よく姉上の布団へ忍び込んだのを思い出す
ユキはゆったりと起き上がりながら、思い出に浸かった
最近は時間をかければ一人で着物を着られるようになって、朝の鍛錬は葵を起こさずに済んでいる
─カタン
障子を開ければそこには、一面の雪景色だった
真っ白なその景色に心を洗われる思いで、ユキは庭へと降りたのだった
冬の朝の匂いは嫌いだ
空気の冷たさにガキの頃の嫌な思い出が重なりやがる
政宗はズレた眼帯を直しながら、仕方なく体を起こした
もう一度は眠れそうになく、着物を着込んで障子を開ける
そこには一面の雪景色
どおりで寒いはずだと、吐き出される白い息にも納得した
「?‥‥」
庭の端に動く人影を見た
まだ誰も起き出していない時間だと思ったが、まさかこんな雪の日に忍び込む馬鹿もいないだろう
そう思いながら近づいていくと、それは数日ぶりに見る顔だった
「ユキ」
「!、あ、政宗様、おはよう御座います」
「Good morning.」
ぐっもーにん?
ああ、南蛮語だろうか?
意味は分からなくとも、挨拶への返事で意味を悟る
慌てて頭を下げたユキに、政宗は訝しげに問うたのだった
「朝っぱらから鍛錬か?道場を使えばいいだろうが、雪ん中で何やってる」
「まだまだ道場を使わせて貰えるような腕ではありませんよ。せめて刀を振れるようになってから、そちらに行かせて戴きます」
そう言ったユキの右手は既に悴んだように赤くなり、鼻先も同じく赤らんでいた
あれから1ヶ月とはいえ、病み上がり、だよな?
多少は心配に思うが自分より年下のユキに、新しい弟が出来たような感覚を覚えた政宗はにこやかに笑った
「All right.お前の心意気は俺の気にいるところだが、無理はするんじゃねえぞ?」
「!、はいっ」
くしゃくしゃに頭を撫でられユキは驚いた
こんなにも気軽に触れてくれるのは、今や姉の綾や葵ぐらいのものだったからだ
それももう葵だけになってしまったが
やがて皆起き始めたのか、城の中がざわめき始める
見送る政宗の背中にふと、ユキは思った
ぐしゃぐしゃになった頭を直しながら
今日も、頑張ろう
2011.2.18.
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