裏切りたくない
「‥‥あ、おい?」
「!、ユキ様!」
二・三日は目を覚まさないだろうと医者には言われていた
ユキは熱で朦朧とした意識の中、起き上がろうと手をつくが左腕だけでは体を支えられない
「‥‥‥余り痛くない、葵の薬?」
「はい。ですが感覚を麻痺させているだけですので、無理は‥‥」
「姉上は無事に発たれたか?」
「はい。筆頭殿が腕の立つ者を付けて今朝方」
今朝‥‥
ふと視界を巡らせれば行灯に火が灯り、それでも部屋の中は薄暗い
その行灯に照らされた葵を見れば微笑んでいた
「綾姫様はユキ様を筆頭殿にお預けになられました。筆頭殿もそれを受けられ、佐々家にもその旨伝わっております」
「‥‥‥、それは、まさか、筆頭殿は、受けられた?」
片腕の小僧を伊達に置くと?
信じられないと葵を見れば、ちょうど政宗が小十郎を伴なって部屋を訪れた
ユキは葵に頼んで体を起こす
「驚いたな。話し声がしたから来たんだが、医者の話しだとしばらく目は覚まさないって言ってたんだが」
「‥‥お世話をお掛けしてしまい、申し訳御座いません」
「いや」
政宗はユキの横に座ると、マジマジと顔を見つめてくる
真っ直ぐに見つめ返すと政宗はニヤリと笑った
「片腕になっても闘志は衰えねぇみてえだな。okay.引き取ったかいがあったぜ」
「その事ですが筆頭殿、片腕になった今、私はあまりお役に立てないのではないかと」
素直に事実を述べる
そうすれば政宗は自分の右目を指差して言うのだ
「俺は片目が見えねえ、だがな、弱くはねえぜ?」
「‥‥‥‥」
言われたユキの顔が僅かに歪む
自分が片腕を失うという事がどういう事か、理解している筈だった
もう誰かを、自分をも守れないのだと思っていた
だが違った
筆頭殿が先程闘志と称したものは、女として生きると決めた私の覚悟
だが違うのだ
私はまだ戦える、だが何の為に?
「どうした?泣きそうだぜユキ?俺はお前が気に入ってんだ。裏切ってくれるなよ」
「精進致します」
深く頭を下げようとしたが、腕に響いて中途半端になってしまった
役に立てるだろうか?
私だって裏切りたくない
出て行く二人を見送って、ユキはただ泣きそうになる自分を抑えた
2010.10.10.
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