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詮無き事と知る






綾の一行を小十郎に送らせて、政宗はユキの元に居た


『どうかユキを佐々家には返さないで下さいませ』


ユキは妾腹であり、大した身分は無い

その為に綾の護衛にまわされた上、そのまま付いて行けと言われていたのだ


だがこの怪我では動かせない



「疎まれたか」



聞けばユキは妾腹でありながら兄弟の誰よりも学問に優れ、剣術にも長けていたという

となれば兄弟は勿論、その母親にも疎まれていたことだろう


傷の熱が下がらず未だ布団に伏したままのユキを引き取ると、政宗は綾に約束した

その綾がユキにと残していった女中である葵が、着替えを持って現れる



「これは筆頭、こちらにお出でとは知らず失礼を」

「気にするな。着替えか?手伝うか?」



政宗の申し出に葵は一瞬驚きに目を見開くが、次には落ち着いた様子で断りを入れた



「恐れ多いことで御座いますわ。どうぞお気遣い無く‥‥‥、そうそう。片倉様がお探しになってましたわ」

「shit!ここに長居はできそうにねえな。後は頼んだぜ」

「御意に」



政宗が部屋を出たのを見計らって葵は障子を締め切り、更に用心の為に衝立を用意する

そして手早くユキの着物を着替えさせると、同時に包帯も換えた


医者には、ユキが女であるとはバレなかった

それにはユキの発育面にも要因はあったが、右腕に見切りを付けた潔さが理由のようだった


ならば、女なら泣き叫ぶということか?


それはそれで失礼な話しだが、だが、本当にバレなくて良かったのだろうか?

これはユキが女として生きるチャンスではなかったのか?


だがこれは、詮無き事





「誠に、詮無き事で御座いますね‥‥ユキ様」



この方はもう十年も前に生き方を決められたのだ


自ら選んだ道

選ばざるを得なかった道


誰もユキ様を助けられはしなかった

綾姫様も、ユキ様の母上様も、もちろん私も、この幼い手に守られてばかり




布団をかけ直し、髪を梳いて整えた

幼さなど微塵も残さず、女としては精悍な顔立ち

筆頭殿か片倉殿か、ユキ様が女子だと言えば配慮して下さるだろうか?


ユキ様がそれを

望まないにしても




2010.3.24.

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