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落として欲しい






兵を幾らか迎えにやれば、どうやら敵は片付いていたらしい

ユキは近くの農民に荷車を借りて怪我人を荷台に乗せていた


小十郎には国主が姫の相手をと言われたが、当の姫がユキを頼むと言ってきたのだ

まあお陰で楽に城を出られた




「伊達殿、このような場所へ‥‥」

「医者を連れてきてやったぜ。必要だろう」



死体を埋める人足もな

後者は口に出さず、辺りを見回す


ユキはそれに気付いて眉間を寄せた



「私には、姉上をお守りするだけで精一杯でした」

「‥‥アンタも早く傷の治療を受けな」



傷?

ああ、この腕か


ユキは政宗に言われて初めて気付いたように自分の右腕に手を添えた

もう感覚がない

無理やり振り回しでもすれば千切れて落ちそうだ



「Hey.しっかりしろ」

「っ、今頃、痛みが‥‥」



右腕を強く握り締めて苦笑いする

政宗は慌てて医者を呼んだ


顔面蒼白のユキの腕を診て、医者は唸る

斬られて数刻とはいえ傷口が深すぎた



「‥‥恐れながら、切り落とすしかないかと」

「shit!なんとかならねーのか」



政宗が医者に食い下がるのを何処か他人事のように見ながら、ユキはふと意識が飛びそうになる感覚を覚えた

ガクガクと体が震え、立っていられない



「いかん!痙攣を起こしとる!」

「‥‥っっっ、っ」


「どうすりゃいい!?」

「肩を押さえて!」



政宗がユキの肩を押さえつける

バタバタと暴れる足も押さえる為に馬乗りになった

その間に医者は気付け薬をユキに飲ませ、腕を切り落とす準備をする


ユキが落ち着くと、政宗は医者にこう言われる



「政宗様、彼の腕、貴方様が落として戴けませんか?」

「What?何だと?」



言われてユキに視線を移せば、未だ蒼白のまま虚空を見上げていた

意識はある



「彼の腕は落とさなければ命に関わります。貴方様の剣ならば焼き切れましょう?」

「surely.」



雷を纏う政宗の剣ならば確かに、そして何より政宗の腕ならば確実にユキを救うだろう

ユキはそれを聞きながら、そっと右腕を惜しむ

そして何とか立ち上がった



「政宗殿、お願い致します」

「右腕だぞ?」



政宗は唸る

その様子にユキは苦笑しながら言った


「私は申し上げました。たとえば右腕がつかいものにならなくなったとしても、左腕が御座います」



それは本心だった

大切なのは自身ではなく姉の無事だった

後悔すらなかった



「okay.」



政宗は一度瞑目すると刀を抜いた

ユキも政宗の正面に立ち、まっすぐに見つめる



「政宗殿」

「何だ」


「右腕は彼らと一緒に埋めて下さい」

「crazy boy」



瞳を白く焼く雷光を最後に、ユキの意識は再び飛んだ





2009.12.9.


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