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右腕が酷く疼く



最近は、雨が降る日が分かる

雨の日の前には、今はもう無い右腕が酷く疼くから

まるでまだ此処に在るように、痛くて痛くて堪らない


今夜も右腕が疼いた

空は薄曇りで月も見えるのに、明日はやはり雨なのだろうか?



「ユキか?」

「片倉様、こんばんは」



厠の帰り道で気恥ずかしく思いながら、ユキは小十郎に会釈した

今夜は城に泊まるのか、小十郎は少し着物を崩して着ていた



「?それは?」

「ああ、政宗様の所望の酒だ。今夜はなかなか眠れないらしい」


「明日は、雨、ですからね」



ユキの返した言葉に小十郎はハッとした

政宗が今夜眠れないのは右目の傷が疼くからだ

それは雨の日やその前日、それをユキも感じ取っているのか?

失われた右腕の有るべき場所では、薄い着物の袖が風にはためいている



「傷はまだ痛むか?」

「いえ、もう塞がってますから」



ユキが言葉を濁すのに気付いた小十郎だが、言葉をかける前に人影が遮った



「Hey!遅えぞ小十郎。ユキと何やってやがんだ」



不機嫌そうに現れたのは政宗で、ユキは慌てて頭を垂れた



「申し訳ありません。ちょうど鉢合わせたものですから傷の具合を聞いていたのです」

「Hah.まぁいいユキ、てめえも来い。酌をしろ」

「はいっ!片倉様、お酒はお持ちします」



素直に返事をしたユキとさっさと歩き出した政宗に小十郎は困惑する

ユキは明日は小姓の仕事があると、引き止める機会を逃す


後を追って政宗の部屋に着けば、既にユキは酌をしていた

片手で器用に酒をつぎ、政宗の脇に控えている



「Hey!小十郎、お前も呑め」

「は、戴きます」



政宗から手渡された盃にユキが酒をつぐ

そうしてユキにも酒を進め暫く経った頃、酒も空になる



「小十郎、酒だ」

「政宗様、ほどほどになさりませんと明日が辛いですぞ」



「堅いこと言うなよ」



仕方がない、と小十郎が腰を上げようとして、ユキが代わりに立ち上がった

というか立ち上がろうとした



「おい!」



ふらふらと体を傾がせたユキを小十郎が支える



「すいません、あの、お酒は私が」

「いいから座ってろ」



危なっかしいと小十郎に諭され、大人しく座り直す

酒とは凄いものだ

思考回路が焼かれている


ふわりふわりと意識を集中出来ないユキを、政宗は面白そうに見ていた




2012.3.22.

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