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どうか、どうか



どんな気持ちだろう

政宗様に褒めて戴けたなら


どんなにか、幸せだろう





城の中に、道場とも呼べる稽古場が存在する

そこは何時、誰でも使用する事が出来、小姓として仕えるようになったユキは政宗の鍛練に付き合う事が増えていた

最初は見ているばかりだったそれも、今は政宗の相手を勤める事もあった

そして、思う



「無力だ」



今政宗の小姓は三人居て、交代で仕えている

普段は一人が側につくが、特別な日は二人、もしくは全員が駆り出される時もある


ああ、言いたいのはこんな事じゃなくて

今日もまた二分ともたなかったんだ



「気にすることないんじゃない?政宗様はユキに期待してるのさ」

「ふん、片腕だからと言って甘やかすな。政宗様の小姓を勤めるからにはそのような気概では困る」


前者は遊佐一馬

後者は三上十郎太で、そのままユキと一馬に背を向けて行ってしまった

二人は小姓仲間で、今日は十郎太が政宗様のお側についているのだ



「もうちょっと言い方っての考えらんないかな?」

「ううん、もっと私が頑張らないと」



気合いを入れ直した様子のユキに一馬は呆れる

もっと気を楽にすればいいのに

怪我をして三ヶ月半でここまで回復し、政宗の小姓にまでなったのだ

これは凄いことなのに

いや、だからこそ気を抜けないのかも知れない



「真面目だねえ」



小十郎の手伝いをすると言って去っていった背中に、一馬はまたため息を吐いた









「ユキ、体術はやれるのか?」

「え、あ、はい」



鍛練の前、ふと気づいたように政宗が聞いて来た



「あとお前、今は刀使ってないだろ?使ってるのは何だ?短刀か?」

「はい」



okay.と政宗は笑って、今日の鍛練に短刀を持参するように指示する

真剣でなされるのだろうか?

今までは木刀で、というのが常だったのだが、もしかしたら真剣での勝負で実力を試したいのかもしれない

ユキは何となく納得して、道場へ短刀を手に入っていった



「!!」

「okay.来たな」



ユキが道場に入ると既に政宗が居て、残りの小姓二人だけでなく腹心である片倉小十郎、鬼庭綱元、伊達成実も揃っていた

何事かと目を見張るユキの背後から、前田慶次も姿を現した



「えっと、あの」

「入れよユキ。今日の主役はお前だ」

「そうだぜ。俺も楽しみにして来たんだ」



政宗に促され、慶次に背中を押されて道場の中心に立つ

ドクドクと心臓が高鳴った



「どうしても隻腕のお前を小姓にしてるのが気に入らねえって奴らが居てな。demonstrationてやつだ」

「でもん、すと?」


「実演だ。今から小十郎と真剣で勝負しな」



まさか!

ユキは驚きに声を上げそうになった

竜の右目、鬼の小十郎と名高い片倉様と真剣で勝負など無謀だ


思わず小十郎を仰ぎ見たユキだったが、その目は閉じられていて感情を読み取ることは出来ない

かわりに鬼庭綱元、伊達成実の視線が絡んで来た



「ユキ」

「は、はい」


「失望させるな」



ドクン

緊張がユキを飲み込んでいく

小十郎が立ち上がり、ユキの正面に立った

無意識のうちにユキも短刀を抜き、構えを取る


ああ、死にそうだ

片倉様は手加減しないだろう


ならば、

ならば全霊で、戦うだけだ



「「‥‥‥‥」」



隙が、なくなったな

小十郎はユキを見つめ、そんな感想を持つ

さっきまでは狼狽えて隙だらけだったと言うのに、小十郎が刀を抜いて構えた途端、覚悟を決めたように落ち着いた


こちらから仕掛ける、か


─キィンッ

「‥‥くぅっ」



小十郎の刀を受け流そうとしたユキが力で押し負け、苦しげに声を漏らす

だが何とか身体を回転させて刀を弾き、その勢いを借りて小十郎に斬りつけた



「フッ」

「はあっ!」



寸ででかわした小十郎に、ユキは更に間合いを詰めた

だがすぐに体勢を立て直した小十郎に返されて、せっかく詰めた距離が開いてしまった



「!」



二人の対峙を見ていた政宗と小姓の一馬と十郎太以外の三人は息を飲んだ

三人の誰も、ユキがここまでできるとは思わなかったのだ

小十郎の実力は此処に居る誰もが知っている

それにたった数瞬でも渡り合えているユキの力

だが、まだだ

まだ使えるかどうかは分からない

無言で対峙する二人を固唾を飲んで見守り続ける



「‥‥‥‥」

「‥‥‥来い」



─ガッ、キィンッ


誘われるままにユキが飛び込んだ

振り下ろされる刀の軌道を短刀でずらす

懐に入り込んだユキを掴もうとする小十郎の腕を逆に掴み、ユキはフワリと小十郎の身体を浮かせた



「なっ」

「‥‥くっ」



危うく投げられそうになった小十郎がすぐに体重をずらし、ユキから離れる

普通ならあんなに細い輩に、倍は体重があるだろう小十郎を投げる事など無理な筈だ

政宗は面白そうに笑った

元々小柄なユキは刀も細身の物を使っていた

それが短刀に変わったからと言って、それ程実力が変わる訳ではないし問題なのは腕だったのだが、今の体術を見ると決して使えないようには見えない


だが再びユキが切り込んだ時、小十郎の刀をまともに受け壁に叩きつけられた



「あぅっ」

「!」


「そこまでだ、小十郎」

「はっ」



強く打ち付けられ、すぐには立ち上がれないユキを小姓の二人が手助けする

何とか政宗の前まで歩くと、頭を垂れた



「顔を上げな、ユキ。なかなか良かったぜ」

「あ、ありがとう御座います!」


「これでお前らも文句ねえだろ?どうだ綱元、成実?」



自信満々に言い放った政宗に、綱元も成実も渋々頷く

二人に言わせればまだまだだが、それでもユキの実力は小姓に足るものだった



「認めましょう」

「認めるよ」



それにユキはほっと息を吐く


良かった

小姓の地位を得た今、政宗様のお側を離れる失敗は犯したくない

どうか、どうかと願い続ける



いつかお役に立てますように




2011.3.29.

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