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はい、と答えた



辿り着いた先には、何もないのかも知れない

家を出され、片腕を無くし、政宗様に拾われ、大した覚悟も大儀もないままここに居る

ただ裏切りたくない、と

そう言ったところで片倉様ほどの忠誠心が有るわけでもない

では何故ここに居たいと思うのか?


考える

考える


考えても出ない答えにはきっと、仏様が法術をかけていらっしゃるんだ




「‥‥‥ぁ」



久しぶりに葵よりも遅く起きた

朝の鍛練には十分な時刻だが、葵は着替えを手伝うと言って聞かないだろう

それを予想して笑っていれば、ちょうど支度を終えたのか葵が声を掛けてくれた

予想通りに手伝うと言った葵に素直に従い、浅葱色の着物に袖を通す

その日は何となく葵に全てを任せた









「どうした?聞こえてんのか」

「は、はいっ、いえ、しかし」



酷く狼狽えた様子のユキに、政宗は満足そうに笑った

政宗が先刻ユキに伝えた言葉はこうだ

『俺の小姓の席が一つ開いた。ユキ、お前を据えようと思う』

常時、小姓は何人か居る

多くは成人後、小姓を卒業して伊達家に尽くす家臣のひとりとなる

だが小姓の仕事は、



「政宗様、私が小姓には‥‥その、難しいのでは?」

「no problem.そう言うだろうと思って小十郎にも御墨付きを貰ってやったぜ」



政宗が取り出した紙には小十郎の字で『問題なし』と一言書かれている

問題はあるだろう

何と言ってもユキは片腕だ

小姓とは政宗様の身の回りの世話をするだけではない

時には身を挺して守らねばならないと言うのに



「私は隻腕です。今も出来るのは掃除や馬の世話、片倉様の畑の手伝いに料理ぐらいのものです!」

「じゃあ何で毎朝毎晩、鍛練を欠かさねえんだ」



返答に困った

政宗様の言うとおりだった

私は、どうして

諦めていないんだろう?



「しかし、」

「聞きてえのはYesだけだ」



ああ私を、必要として下さっているのだろうか


ふつり、と

自分の中で炎が灯るのが分かった


これは熱だ

政宗様に、どうしようもなく惹かれている

熱く、熱く、この身を焦がすほど強く惹かれる



「答えは」

「Yes.」



きちんと正面を向いて言った


奥州に来て三ヶ月

春になる前にユキは政宗の小姓の地位を得た




2011.3.5.

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