[携帯モード] [URL送信]
たとえば右腕が






「開門っ!開門っ!」

「あ゙ー?誰だ、‥‥っうわ」



僅かに開いた門の隙間から馬体をねじ込んで中に入った

多少の無理は承知だ

だが私は何としても奥州筆頭に目通り願わねばならない



「我は奥州河南、迫桜領主・佐々桔成が三男、佐々ユキ!奥州筆頭・伊達政宗殿に願あってお訪ね申した!何処に居られるか?」



中庭まで入り込んで名乗りをあげ、馬上から降りるが傷に響いて片膝をつく

だが何とか立ち上がって、馬上のもう一人を降ろして自分の背後に庇った

気が付けば、わらわらと集まる伊達家の家臣達にあっという間に囲まれていた

まさに一触即発

その緊張感の中にドスのきいた声が響いた



「どかねえか、てめぇら」

「はっ、片倉様」

「片倉様」



ああ、彼が噂に聞く竜の右目、片倉小十郎か

ユキは両膝をつき、敵意がないと示す為に刀を前に差し出して旅装のために羽織っていたマントを外した

そのユキの右腕の異変に気付いた小十郎が眉をしかめる



「お見苦しい姿で申し訳ない。失礼は承知でここまで入らせて戴いた」

「で、何だってこんな無茶しやがったんだ?」



深く頭を下げ、ユキは事情を話した


姉である綾姫の輿入れの為に伊達の領地を通ることは、もとから知らせてあった

だがその途中何者かに襲われ、連れていたその殆どが命を奪われたのだ



「綾姫は無事こちらに。頼みというのは綾姫を暫しの間預かって戴きたいのです」

「綾に御座います」



今までユキの後ろに居た綾がユキの隣で羽織を取る

その顔は焦燥仕切っていて、今の話しが嘘ではない事を物語っていた


ここで綾姫を預かったからと言って、伊達に利益があるわけではない

全ては伊達政宗の器量にかかっている

ユキはどうか伊達殿にお取次をと小十郎に乞うた



「okay.いいぜ?預かる」

「政宗様」



人垣が割れたかと思えば濃紺の着流しの、隻眼の青年

隻眼だというのに、否、隻眼だからなのか

その眼光は鋭く隙がない



「よろしいのですか」

「Ha!尻に疑問符が付いてねえぜ小十郎」


「あ、有難う御座います!!」



ユキは礼を言い、綾姫を小十郎に預けると再び騎乗した



「Hey!何処行く気だ?その腕、まずいんじゃねえのか?」



ぶらりと下がるユキの右腕は、止血はしてあるものの、そのまま取れてしまってもおかしくないほど深く切られていた

それでも真剣な眼差しでユキは言うのだ



「たとえば右腕が使い物にならなくなったとしても、左腕が御座います」

「crazyな野郎だな」


「褒め言葉と受け取っておきましょう」




言って、ユキは馬を駆った


季節は冬

北の戦が落ち着く頃だった




2009.12.9.

[次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!