幸福の反作用
なにかを手に入れてそしてそれを失った時、知らなかった時よりずっと
悲しく寂しい気持ちになるのだ
悲しい？
私、もうボスに会えないの
だけど、ボスはきっと幸せになれるわ
私はblue、ボスのblue、ボスだけのblue
私はボスの幸福の青い鳥
ﾋﾟｯ ﾋﾟｯ ﾋﾟｯ ﾋﾟｯ
規則正しい電子音
ビニールに覆われたベッドの上に横たわったユキは人形のように蒼白い
頭に捲かれた包帯と、呼吸を補助する機械と、幾つものコードや管がユキの体に巻きついている
「馬鹿野郎がぁ‥‥」
他には誰も居ない部屋で呟いて、声はすぐに消えた
XANXUSは一度ここを訪れたきり来ていない
ユキは泣いている
撃った時にあの女、アイリスが止めようとしたおかげで一命は取り留めたユキだったが、脳は傷ついた
この涙もそのせいで流れているらしい
マーモンは何も言わなかったが、レヴィなどはユキの忠誠心は俺が引き継ぐと泣いていた
ベルですらユキが死んだらつまんないじゃん、と呟いていた
知ってたか？
他にも色んな奴が見舞いに来るから理由を聞いたら、お菓子をいつも貰っていたと答えやがった
どれだけ配り歩いていたんだか
「‥‥‥‥」
「やっと来たかぁ」
いつの間にかドアの所にXANXUSが立っていた
スクアーロが無理矢理XANXUSを呼んだのだ
「何のつもりだ」
「聞きてえ事がある。ユキをどうする」
どうする？
どうしようもない、為す術はない
じっとユキを見つめても目を覚ますことはない
何百万分の一の確率で目覚めると医者は言った
脳の損傷から言って、目覚めても何らかの障害は残る
ならば目覚めない方がユキの為か
自ら選んだ死なら、いっそ息の根を止めた方がユキの為か
ああ、知ったことか
ユキの望みなど知ったことか
どれだけユキが死を望もうと、殺してくれと泣き叫ぼうと
ユキを、この腕の檻の中に閉じ込めよう
長い沈黙の後にXANXUSははっきりと言う
その気質である傲慢と憤怒をはらませて
「待つ」
2009.11.16.
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