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最終的に損してるのは鮫






「ドカス」

「うるせぇーっ!悪かったって言ってんだろうがぁっ、それに車が壊れたのは俺のせいじゃねぇぞぉっ!!」



ザンザスとスクアーロ、そしてユキは山道で立ち往生していた

携帯の電波はない

衛星電話は必要ないと思って置いてきた

そこに車の故障ときたものだから、もう本当にどうしようも無かった



「だーれも通りませんね」

「そうだなぁ」



とりあえず通りかかった車を拝借しよう(おい)と思ったが、車どころか動物一匹だって通らない

そろそろ日も暮れ始める時間

何とかしなくては


スクアーロと共に車の外で見張っていたユキは思い立って森に向かった



「私、ちょっと木に登って誰か居ないか見てみますね」

「あぁ、頼むぜぇ」



器用に木の幹を駆け上がっていくユキを横目に、スクアーロはコートの襟を立てる

本格的に冷えてきやがった

下手に動く訳にもいかないが、このまま此処に居るのも危険だ



「っ!‥‥ぁ」


―ターンッ



悲鳴と共にユキが木から落ちた

銃声は悲鳴の後に聞こえたから、かなり遠距離からの攻撃だ



「ユキっ」



途中の枝に何度もぶつかったから、勢いは殺されて致命傷にはならない

加えて雪がクッションになって、ユキは呻きながらも起き上がれた



「大丈夫かぁ!?」

「いっ、たい、です」



木に寄りかかって額に触れると指先が血で濡れる



「うわ、わ」

「何してやがる」



そこにXANXUSも来るものだから、ユキは少しパニクって立ち上がる

ボタボタと思ったより血が流れて、慌てて手でおさえた



「すいません、西からの射撃だったので逆光で姿は確認出来ませんでした」

「ふざけやがってぇ!!」

「‥‥‥‥」


XANXUSの無言の圧力にはもう慣れたもので、二人は迎撃もしくは攻撃の算段をたてる



「さっき木に登ったとき、少し北に山小屋を見つけました。ボスはそこで寝てて下さい。私はそこより東に射撃ポイントを見つけてます」

「よし行けぇ。俺は直接行く」



言われて走り出す、つもりが腕を引かれて尻餅をついた


い、痛いっ

さっき打った所を直撃して、ユキは眩暈を覚える

何事かと腕を掴んだ張本人を見上げれば、普段より三割り増しの不機嫌な顔


ああ、そんなお顔も素敵です



「どうしたんで」

「カス鮫だけで十分だ、来い」



それからユキは有無を言わさずXANXUSを追わされ、スクアーロはさっさと攻撃に向かう

ユキの言った通り少し歩いた所に山小屋があり、小屋の中にも周りにも人の気配はない

中を調べても、かなりの間使われていないことが分かるだけだった



「ボス、ラッキーです。ソファに埃除けがありますよ!‥‥別荘なのかな」



その埃除けを取り除いて、軽く整えてXANXUSを招く

ドカリといつものように座ったのを確認して、車から持ってきた酒を注ぐ



「‥‥持ってきたのか」
「はい、でも氷は我慢して下さいね」



手に付いた血が移らないようにして全てを終えると、銃を片手に窓から外をうかがう

静かだ

もう少しで日が落ちて何も見えなくなる


スクアーロさんは首尾よく敵を掃討できただろうか?

ボスには灯りなしで我慢してもらってるけど、かなり冷えてきた

暖炉を使おうか?

いや、もしまだスクアーロさんが掃討し終えてなかったら此処がバレる



「ん?」



眼帯をしていない左目に何か入って、慌てて拭う

まずい、血だ

まだ止まってなかったのか


頭に手をやれば髪が濡れて張り付いている

どうやら隊服にも染み込んでいるらしく、濡れた感覚を肌に感じた



「‥‥‥ユキ」



不意に名を呼ばれて振り返る

ボスがこっちを見てた



「来い」

「は、はい」



手を

差し出されてしまった


なんてレアなんだなんてレアなんだなんてレアなんだ

ああ、くらくらしちゃう


ああ、本当に、くらくら、クラクラくらくら



「ぁ」



勿体ない、勿体ないよ

ここで堕ちたら、一生後悔するかも知れない

だってボスが手を差し出すなんてきっともう一生ないに決まってる


ああ、でも

貧血だ



「ボス」


何とか近くまで寄るが、がくりと膝をつく

まったくなんて事だ

命取りだ

ヴァリアーなのに、ヴァリアーなのに、しかもボスの目の前で


ユキが何も言えずにいると、XANXUSはユキをソファに引き上げた

そしてあろうことかコートを脱いで掛けようとするのだ



「駄目、です!ボス」



何だこれ

ボスじゃない



「‥‥‥‥」



コートを脱ぐのを阻止すると、今度は膝の上に持っていかれた

自然にその胸に耳を寄せることになる

そしてそのままユキはXANXUSの左腕とコートに包まれた


ああ、なんてこと

血が、ボスのシャツに染み込んでいるのに



「すいません、ボス。気持ち良くって動けません」

「‥ハッ‥‥」



鼻で笑われたって気にならない

ボスの胸は本当に心地いいの

敵が来たってボスがやっつけてくれるんでしょう?



「寝てろ」

「‥‥‥はい」



もういいや

後でスクアーロさんになに言われたってボスのせいにしよう


そうしよう






山小屋に入れなかったスクアーロが凍死しかけたことを、ユキは翌朝聞いたのだった

(入れるわけねぇだろうがぁ)




2009.11.29


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あきゅろす。
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