そのあと、
組み敷くという行為を、許したことはなかった
幼少の折より弟を守り通し、自らをも守り通した
身体の傷が誇りだ
力強い腕も、足も
固くなった手のひらですら、私には欠かせなかった
「っ、政宗殿っ」
やめて欲しいと瞳で訴えても、ぺなるてぃーだと、そう言うだけで離しては下さらない
初めての口付けは行為に反して優しくもあり、雪を気恥ずかしくさせる
落ち着くまではと今まで伽を命じられなかったが、いつかは、その、床を共にしなくてはならないとは知っていた
「あのっ、まだ明るう御座いますっ」
「Don't worry.人払いしてある」
違っ、違うっ
雪が一番心配しているのはそういうことではなかった(それも心配ではあったが)
外が明るいということは、障子を閉めても部屋の中が明るいということで
雪は身じろいで着物を脱がされまいとする
「Ah?なんのまねだ?着たまましてえのか?」
「うっ‥‥、出来ればお許し下さい。脱げば気分を害されます」
言えばピタリと政宗の手が止まる
おずおずと見上げれば、政宗が訝しげな顔で見下ろしていた
「なんでだ?」
「傷があるので御座います。幼少の砌(ミギリ)より病弱な弟を狙う者は多く、私は父に護衛の任を申し出、十の時には体中に傷を作っていたのです」
着物の合わせ目を握り込み、雪は言った
「私の身体は醜う御座います」
「fool」
一言呟いた政宗は、雪の上から退く
雪を起きあがらせ、その頬をなぜた
うっすらと傷が残る左の頬
「‥‥っ、政宗殿」
「そんなに自分を卑下するもんじゃねぇよ。アンタは綺麗だ」
あ
かあっと頬に熱が上がり、雪はこれでもかと言うほど赤面した
ぽかんと口を開けて言われた言葉が頭の中をグルグル回る
雪の場合、武芸に秀で過ぎていたためか女として扱われることもなく、そんな言葉、言われたことがなかった
「Huh.気分がそがれたな。小十郎、夕餉の用意をしろ」
「は」
「片倉殿!?」
障子のすぐ向こうから声が聞こえて、雪は跳ね上がった
誰も居ないと思ってたのに、もしかして今までの会話を聞かれてた?
「?どうした?」
「は、恥ずかしゅうございます」
耳まで真っ赤にした雪に、政宗は愛おしそうに微笑んだ
2009.7.31.
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