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竜の逆鱗





スラリと、雪が長刀を抜く

うっとりするほど流麗で、ゾクリとするほど艶美である



―ガタン


貴蝶が横を見れば政宗が片膝を立てて息を飲むのがわかった

気づいた?



「あれは、‥‥だったらてめえは、貴蝶か」

「っ‥‥、仰せの通りで御座います」



やはり気付かれたか

貴蝶は政宗に平伏した

苦々しい声音に畏縮しつつも、貴蝶は主の願いを口にする



「筆頭殿お聞き下さい!我が主はただ貴方様に認めて戴きたかっただけに御座います」

「What?ふざけるな。これが頭の硬てえ重臣共に知れりゃあ謀反の疑いを掛けられるぜ」



その言葉に貴蝶は思わず頭を上げた

冗談じゃないっ!



「まさかっ!雪様はただ、ただ本当に政宗様を思い、その正室になられる方をお側近くでお守り致します許しを得ようと、このような無茶をなさっただけなので御座います!どうかお話しを」

「Shut up.試合が決まるぜ」



雪の長刀の切っ先が、相手の武器である二刀をいなしてその軌道を変える

相手が刀の方向を修正出来ない瞬間に雪が身を翻した

翻して、もう一度相手の方へ振り返る

突きの一閃が相手の頬を掠めた



「勝負あり」



嫌に無機質な声に聞こえて、貴蝶は不安に胸を押さえた

隣の政宗は無言で雪を見、そして何事かを小十郎に命じた

小十郎の向かったのは雪のところ



「政宗さま、どうかお待ち下さいませ」

「黙ってろ」



静かに語り掛けても無駄

ならばもし、この事で伊達政宗が雪様に危害を加えるならば、その時は‥‥

貴蝶は暗器に手をかけたが、どうやら呼びに行かせたらしい、小十郎と共に雪が来た



「お呼びでしょうか?」

「茶番は終わりにしろ。てめえの実力ならもう知ってる」



顔を伏せていた雪は政宗を見、そして貴蝶を見た

こくりと頷き、バレていると伝える



「勝手をし、申し訳ありません」



雪は素直に謝った

それが気に入らなかったのか、政宗は小十郎に集まった者達に褒美を取らせて解散させるように言うと立ち上がった



「follow me.」

「は?」


「ついて来い」



言われて慌てて雪は政宗を追った

付いて来ようとしていた貴蝶に雪は首を振って同行を断る


政宗殿のことだ

私のことを考え、人前で叱るのは遠慮してくださったのだろう

雪は単純にそう考えていた


部屋についた途端に腕を引かれ、政宗にぶつかってしまった

慌てて離れようとした雪の腰を片腕で強く掴むと、もう片方の手で障子を閉める



「政宗殿、」

「どういうつもりだ?許した覚えはねーぞ」



低い声で唸られて、さすがの雪もびくりとした

腰に回された手を外してはくれまいかとその手に触れるが、力が弛まることはない



「申し訳ありませぬ。けれどどうか、私をお使い下さいませ」

「使う?俺にお前をどう使えってんだ?」


「戦に、‥‥戦にはもう行けぬと分かっております。なれど、城の守りならばお許し戴けましょうか?政宗殿が正室をお迎えになられれば、女の私の方がよりお近くでお守りできます。ですから、ぁ」



ドサリ、背中を支えられながらも畳に倒された

怒って、いる



「勘違いしてるぜ。Honey」

「え?」



戸惑うように畳に手をついて自分を支えようとしていた手が、政宗によって抑え付けられた

背中にあった手も今は雪の顎を撫でていて、そこではじめて雪は政宗に押し倒されたのだと気づいた



「あの、これは」

「アンタは俺の室なんだ。どうしようと俺の勝手だろう?」



怒りと、憤りの混じった瞳

雪は何も言い返せなかった




2009.7.12.


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あきゅろす。
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