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ふたり乗り





まったく、物好きも居たものだと雪は思っていた

武将を名乗り始めたときに、嫁ぐことはもう自分にはないとそう思っていたのだ


なのにこの伊達政宗は嫁に来いと言う

正室でないにしても傷だらけのこの身体では気分を害するだろうに、それだけ政治的利用価値があるという事だろうか?

否、そんなものは殆ど無いに等しいと雪は自分で知っていた


難しく考える必要はない

ただ安積家と懇意になる為の駒なのだ

そして私自身もそれを望んで此処に来た




「Hey.考え事か?」

「!政宗殿。申し訳ありません」


「いや、怒っちゃいねえよ」



そうだった

此処は伊達の居城、米沢城だった


やることも無く、縁側で日向ぼっこなどと微睡んでしまっていた

料理をすることも、修行をすることも、遠乗りも、馬の世話も

全部禁止されていたから


天候が良いことだけが救いだった



「城には馴れたか?」

「はい。皆、よくしてくれます」



ちら、と政宗の視線が部屋に向いた

そういえばと、雪は安積から連れて来たただ一人の随行者を呼ぶ



「貴蝶(キチョウ)、こちらに来て挨拶を」



音もなく少し離れた場所へ貴蝶が現れる

政宗は驚いた様子もなく見据えた



「貴蝶に御座います。以後お見知りおきを」

「貴蝶は私と共に育った、共生(キョウセイ)と呼ばれる存在です。政宗殿にとっての片倉殿のようなものです」



「All right.貴蝶は忍だな」

「はい。幼き頃に私が拾い、里の許しを得て共生としました」



全て包み隠さず話す

伊達に嫁いだからには、政宗殿に尽くさなければ

隠し事も無いように



「commendable.確か安積家から連れて来たのは貴蝶だけだったな。何か困らないのか?」

「あちらでも身の回りは自分でやっておりました。ただ‥‥その、普通の女性のような着物は何を選んでいいか分かりませぬ」



普段からが袴(ハカマ)姿だったのだ

着物の着付けはできたが、柄や帯は自分で選べない


今日着ている着物も、安積で女中達が組み合わせてくれ、こちらの女中達が大丈夫だと言ってくれたものだった

季節柄、紫陽花の着物に濃い青の帯



「okay.じゃあちょっと付き合え」

「え?」



濃紺の着流し姿の政宗は、それ以上は何も言わずに歩き出してしまう

雪は慌てて後を追いかけた



「あの、どちらへ、あ、片倉殿」

「雪様、お早う御座います。政宗さま、どちらへ?」


「城下だ。馬を出せ」



雪が小十郎に頭を下げている間にも、政宗はどんどん進んで行ってしまう

ん?でも、城下?

外に出していただける?



「夕餉にはお戻りを」


「okay.」

「ありがとう」



斯くして意気揚々と外に出たのはいいが、雪は少し困惑していた

背中が暖かい

いや、暖かいのが問題なのではなくて、その、みっちゃく、しているのが



「どうしたhoney?そんなに固くなってると馬が気を悪くするぜ?」

「申し訳ありませぬ。ただ、その、!」



ぐいと腰を掴まれて更に密着、耳元に口が近づく

は、は、



「破廉恥っ!」

「oh?どっかで聞いた台詞だな」



馬の首にしがみつく雪を見て政宗は笑う

馬はいい迷惑とばかりに鼻を鳴らした



「Hey.もうしねえよ。三沼の猛将が形無しだな」

「も、申し訳なく。こういった事には免疫というものが無くて」



政宗殿とは夫婦になるというのに、これではいけないと安積の女中達には言われていたのだった

気を取り直したように、雪は政宗に背を預けた



「Good.夫婦には信頼関係が重要だからな」

「は、はい」



そうして連れて行かれたお店は布の問屋のようだった

中に入ればどかりと座り、布を持ってくるように指示している

その政宗がこちらに振り返って雪を手招きする



「いつまでそこに突っ立ってるつもりだ。come on」

「え?」

「come on.来いって言ったんだ」



言われるまま側に行き、いくつもの布をあてられる

真っ赤な布や政宗殿がいつも着ているような真っ青な布、淡い緑、水色、桃色

あまり着たことのない色や柄を持って来られて少し困惑する



「赤がお似合いになるのでは?」

「No.赤は駄目だ。こいつには青を着せる」

「青を?」



問えば店の方にくすくす笑われた

どうやら店の方には理由がわかっているらしく、だが雪は別の事を思っていた



「政宗殿は青がお好きなのですか?私も青が好きです」

「okay.この青とあそこの薄いのを貰おう。そこの薄桃もいいな」


「ありがとう御座います」



あ、あれ?

お店の方がにこにこ笑って、もしかして全部買うことに?



「あ、政宗殿!そんなに沢山は」

「女は黙って贈り物は貰っとけ。okay?邪魔したな、出来たら城まで持ってきてくれ」

「畏まりました。ありがとう御座います」



お店を出てまた馬に乗って、あっという間に時間は過ぎた

帰り道には道すがら、伊達領をさりげなく見せてくれた

豊かな大地

土は肥え、民も飢えていない



「Hey.着いたぜ」

「あ、はい」



先に降りた政宗殿が手を貸して下さる

私は一人で馬に乗れるし、つまり降りるのだってできる


触れた指先は少し冷たい



「俺はこれから軍議だ」

「はい。いってらっしゃいませ」


「All right.夕餉でな」



ぺこりと頭を下げつつ、去っていく政宗を見送った





2009.6.18



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