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愛が足りないとき2



その日、小十郎は実家に里帰りしていた姉を迎えに出ていた

政宗だけに視察を任せるのは気が引けたが、姉を一人にするのも嫌だった

だが、



「政宗様をお一人にするなど、それで竜の右目を名乗れると思っているのですか!?そんな男に育てた覚えはありません!」

「いや、ですから、」


「でももヘチマもありません!今すぐ帰りますよ!」



そう言って馬を引く姉、喜多に小十郎は頭が上がらないのは子供の頃からだった

迎えに来たのは政宗の口添えもあったからなのだが、何を言っても言い訳と一蹴されるのは目に見えていて大人しく後に続く

暫く馬を走らせると、前方から見慣れた姿が現れた

まさか、あれは

小十郎は思わず呼び掛けていた



「政宗様!」

「Hey!戻るのが随分早いんじゃねえか?」



二人は慌てて馬を降り、頭を下げた


「政宗様、何故このような場所に?岩沼の視察の後、城に戻られたのではなかったのですか?」

「岩沼には一晩泊まった。どうせ帰るのが遅れたからな、お前らを迎えに来た」



政宗も馬を降りながら答える

それに渋い顔をしたのは喜多だった



「わざわざ迎えになど、‥‥‥そう言えば安積家から姫を迎えられたと小十郎に聞きましたが、そんなに城を空けて良かったのですか?」



喜多の言葉に政宗はぐっと言葉を詰まらせた

だがこれには理由があるのだ、と内心で自分に言い聞かせる

小十郎に頼んでいたもの

目だけで合図をして手を差し出せば、小十郎の懐から小さな包みが出てくる

それだけで中身を察したのか、喜多はにっこりと微笑んだ

それを横目に、政宗は小十郎から受け取ったものを懐にしまう



―ザザァッ‥‥


一瞬強い風が吹いた

それに驚いた馬を落ち着かせてやれば、いつの間にか三人の前に女が立っていた

女は政宗を睨みつけ、不機嫌そうに言い放つ



「伊達政宗、返答如何によっては貴様を殺す」



殺気だってクナイを構える貴蝶だった









雪は動けずにいた


政宗の視察に伴っていた者達が帰って来たが、とうの政宗は居なかった

出迎えをしようとしていた雪には拍子抜けで、そのまま部屋に戻ろうかと足を進めた時、ふと呼び止められたのだ



「雪様」

「桜さん」



艶やかな笑みに胸が嫌な音を立てる

思い出す

先日、政宗の笑顔が向けられたのは、彼女



「お聞きになっておられますか?」

「な、にを」



思い出す、女中達の、噂話し

動揺する雪にくすりと笑い、桜はその紅い唇を開いた



「私が政宗様の室になったことですわ」



ああ、駄目



「これから宜しくお願いします。お部屋を戴けばお会いする機会も増えるでしょうし」

「、はい」



悲しくて、胸が

押し潰されていく



「ああ、でも、雪様には最近お渡りがないようですわね。私にはお会いになるのに、何故かしら?」



うふふ、と桜が笑う

政宗様はお忙しいからと、心で思っても声が出ない

お忙しいから、だからあの夜から一度も会いには来て下さらない

お忙しいから、だから、だから、私に会いに来て下さらないのですか?


それは真実?

それとも私には、会いたくないのですか?



「雪様、政宗様の事はこの桜にお任せ下さい」



なに?



「心配なさらないで下さい。大丈夫ですわ」





「私がお世話いたします」






やめて

もうやめて




(愛が足りない)
2012.3.11.

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