花の名前
やっちまった
どうにも我慢出来ずに滅茶苦茶に抱いた
朝に顔を合わせるのが怖くて政務に逃げたが、身体は大丈夫だっただろうか?
「政宗様」
否、そもそも俺に正室が来るって時に、あろう事か迎えに行ったアイツが悪い
「政宗様?」
そうだ、俺は悪くねえ
正室は雪だと何度も言ったってのに、余計な気を回しやがって
小十郎と一緒になって愛姫を連れて来やがった
「政宗様」
shit、こりゃあ今夜も
「政宗様!」
「Ah?」
気が付けば小十郎が間近に居た
恐らく何度も呼ばれていたのだろう
小十郎の溜め息がやけに大きくて思わず苦笑した
「sorry.で?何だ」
「やはりお聞きになっておりませんでしたか」
再び深い溜め息を吐かれ、政宗は早く言えと催促した
「愛姫様は暫く此方でお預かりする事になりました」
「What?何でそんな話しになる」
「先程も説明しましたが、愛姫様のご実家近くで小競り合いが始まったとの文があり、暫く預かって欲しい旨がしたためられておりました。此方がその文で御座います」
小十郎が示した先、政宗の目の前には既に広げられた文があった
shit!
文を広げたのにすら気付かないほどとは、かなりの重傷だ
「okay.暫くは預かると田村に伝えろ」
「は、それで、雪様のことなのですが‥‥」
小十郎の口から雪の名が出て、政宗は訝しげに耳を傾ける
そうすれば小十郎が苦笑いを零した
「雪様に女中を何人か新しく付けようと思います」
「Ah?足りねえのか?」
「今お世話しているのは政宗様付きの女中です。この際ですから何人かあたらしく城にあげようかと」
小十郎がそう言えば政宗は納得したように頷いた
雪には貴蝶が居るから雇うなら二人程度か
「okay.俺の方の女中を新しくしろ。人選はお前に任せる」
「はっ」
この時のこの決断が、まさか雪を傷つけることになるとは
政宗も、小十郎さえも露ほどにも思っていないのだった
その日、新しく城に上がることになった娘の名を桜と菊と言った
意図はしなかったが二人共に花の名だ
二人は政宗付きの女中となり、政宗付きだった女中は雪につくことになっている
世話になれた者を雪に付けたいと、政宗が共に勤歴十年を数える女中二人を選んだのだ
「佐伯左門が娘、桜で御座います」
「高橋浪綱が娘、菊で御座います」
政宗に挨拶に訪れた二人を、雪は政宗の横で見守る
傷ひとつ無い肌に整えられた髪、美しいと形容して余りある二人に雪は少し気後れしてしまう
ふと、二人の視線が雪に向けられた気がするも、次の瞬間には二人の視線は畳に落ちていた
「?」
この時の違和感の理由を、後に雪は身を持って知る
2012.2.18.
[*前へ][次へ#]
[戻る]
無料HPエムペ!