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愛姫の覚悟



次の日、雪が目を覚ましたのは昼頃だった

政宗はいつも通りに起きたのだろう

すでに姿はなく、貴蝶が着替えを手に現れた



「貴蝶、おはよう。政宗様はご政務に?」

「はい‥‥」



どこか機嫌の悪そうな貴蝶に苦笑すると、雪は着替えを済ませる

ふ、と息をつくと貴蝶はまた顔をしかめた



「だから!あんな男などとの婚姻は反対だったのです」

「貴蝶、それは」


「一晩中っ、雪様のお体の事など考えずっ、お慕いしているならばあんな無体な事はしないはずですっ」

「き、貴蝶、っ」



一晩中などと!

昨日の身体中に残された痕が思い出され、雪の頬が紅に染まった

は、恥ずかしい



「貴蝶、私は既に政宗様の室なのですよ。大丈夫。政宗様はお優しいお方、私に情けをかけて下さったのですから」

「ですが、」



ハッと貴蝶が人の気配に口を紡ぐ


現れたのは愛姫だった

どこか浮かない顔をしているのは、政宗に国に返すと言われたからかも知れない



「遅い起床だの。それとも、伊達家の正室は如何様な事も許されるのか?」

「決してそのような事は‥‥、私の不徳の致すところで御座います」



愛姫はその言葉を聞くと、ぺたりと雪の部屋に座り込んだ

続いた女中達に、愛姫は菓子を持って来るように言い部屋から出した

貴蝶も隣りの部屋に控えている

雪は愛姫と二人きりの部屋で、困ったように切り出した



「何故、そのように泣きそうな顔をなさっているのですか?」


「‥‥泣いてなどおらぬ。ただ」


「ただ?」

「自分は役立たずなのだと‥‥、そう思ったのじゃ」



愛姫の告白に、雪はドキリとした

同じだ



「知っていると思うが田村家に嫡男はおらず、子も私ひとりじゃ。伊達に嫁に出されたのは第一子を田村家の後継ぎにするという契約あってのこと」

「では、政宗様はそれを反故に?」


「左様。だがその詫びに同盟を結び、婿を探してくれると言って貰った」


同盟、婿

しかしそれでも、政宗様の正室になることよりは劣るだろう

家の為に来たならば、尚更、己の無力さを感じてしまったのかも知れない



「愛姫様はお家の事を一番に考えていらっしゃるのですね」

「分かったような口を‥‥否、そなたは家の為に武将になったのだったな」



同情のように向けられた視線に、雪は困ったように笑った

そう、家の為に、幸荻の為に刀を取ったのは事実だ



「このように血に汚れたおなごを娶って下された、寛大な政宗様が言うのです。善きように取り計らって下さいますよ」

「‥‥‥そうか」



雪の言葉に多少は納得したのか、愛姫は笑った

まだ齢も十二と聞く

大人びた瞳を持つ愛姫に、雪はその覚悟を見る


自分は伊達に来て、随分と政宗様に甘えていたのかも知れない

ただその恩情にすがり、その腕に抱かれて



「愛姫様、御菓子をお持ちしました」

「ありがとう」



侍女たちが戻る頃には、愛姫は肩の荷を下ろしたようだった

そう、政宗様ならば良きように計らってくれる

大丈夫

そして雪は、再び政宗の正室の件で悩まされる日々を過ごすのだった




2011.3.2.

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