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愛すべき人



何が政宗をそんなに怒らせたのかと思う程、目に見えて、というか既に口に出ていた

対面していた小十郎はただ目を伏せ、主の言い分を聞き続けていた



「No kidding!てめー、俺の話しを聞いてなかったとは言わせねえぜ!正室は雪だ、田村の方は断ったっていい」

「なりませぬ。政宗様、お家の事もお考え下さい。田村家と親類関係を結べればこの奥州を統べる近道となりましょう。その分、兵の損失も民の疲弊も減るというもの」



いつものように諭して聞かせる小十郎の意見に、政宗はどうしても聞いてやることは出来ないと思った


"愛姫様をやはり正室に"


田村の文には正室を望む旨が記されていた

いち早くこの奥州を手に入れ天下を、そう望むのは政宗も同じであったが、納得はいかなかった



「何故そこまで拘りになられるのか、正室でなくともお側に置けましょう?」



はたと政宗は思考を止めた

何故雪を正室にする事にこだわっているのか

側室でも側に置いて子も為せる

問われて初めて答えを持ち合わせていない自分に愕然とした


だがふと、口付けた後に恥ずかしそうに微笑む雪を思い出した

そして自嘲気味に笑う


ああ、そうか

要らないのだ

雪だけでいいのだ

側に居るのは雪だけでいいし、他に欲しい女は居ない



「小十郎」

「は」



静かな物言いに変わった政宗に、小十郎が伏せていた目を向ける



「田村には断りの書状と詫びの品を送れ。室は雪だけだ。他のどんな申し出も受けんじゃねえぞ」

「しかし」


「俺に他の女は必要ねえ。伊達や家の名を笠に着る奴はごめんだぜ。何よりそんな手を使わねえと手に入らねえなら、そんな天下はこっちから願い下げだ」



確固たる意志を宿したその隻眼に、小十郎は強く惹かれていた

やはりこの方に付いてきた事は間違いではなかったのだ

そう思う反面、家臣としては愛姫をともまだ思う

いやそれよりも拙い事になった


政宗が正室にと望んだ雪が、今まさに愛姫を迎えに行っているのだ

政宗には内密に進められた愛姫の登城


それを告げればまた竜の逆鱗に触れることは免れぬだろうと、小十郎は人知れず覚悟を決めた










愛姫到着と雪の帰還を同時に告げられ、政宗は二人を出迎える形になった

駕籠から愛姫の手を引いた雪は、政宗の存在に気づくとフワリと笑う

小十郎から愛姫を正室にと聞いているだろうに、何をそんなに笑っていやがる

そんな政宗の不機嫌も解さぬまま、雪は愛姫を政宗の前へと引き出した



「田村清顕が娘、愛に御座います」

「長旅ご苦労だったな、ゆっくり休め。‥‥雪」

「!はい」


「今夜は俺の部屋に来い。okay?」

「‥‥は、い」



意味を解してか、雪の頬が紅に染まる

その目が泳いで小十郎に行き着けば、大きく見開かれた

それもそのはず

小十郎の頬には殴られた痕があったのだ

愛姫を部屋に通し、政宗の部屋に向かう途中で雪は小十郎に事情を説明された

どうやら愛姫は田村家へ返す話しになったらしく、小十郎の頬はやはり政宗が殴ったものだという

困惑する雪に小十郎は謝った



「申し訳有りませぬ。政宗様に内密で事を進めた為、かなり怒っていらっしゃいます。雪様に無体な真似はなさらないとは思いますが、何かあればお呼び下さい。多少近くには控えておりますので」

「ならば今一度、説得致しましょう」

「いや、それは、政宗様のお心は決まっておいでのようで」


「Hey.雪」



二人が話し込んでいると政宗から声が掛かった

雪が振り返れば既に政宗が居て、腕を引かれればその胸に収まってしまう



「小十郎、今日は顔を冷やして寝ろよ?いつまでも腫らしてたんじゃ示しがつかねえからな」

「御意に」


「雪、てめーは仕置きだ」

「仕置き、で御座いますか?」



ぎょっと雪が顔を上げれば、政宗はニヤリと笑った

それに戸惑いを覚えて身体を離そうとしても、政宗が掴んだ腰を離してくれない



「なぜ、仕置きなど」



雪がそう控え目に呟く

政宗は部屋に雪を引き入れながら耳朶に歯を立てた



「っ、‥ぁ、政宗様っ」

「わからねえなら教えてやるさ、この体にな」



着物の合わせ目に手がかけられたかと思うと一気に肩から落とされた

露わになった胸を慌てて隠す雪の腕を両方とも掴み取って、政宗は笑った



「partyだぜ?踊れよ?」

「あ、の」



のし掛かる政宗に抵抗出来るはずもなく、雪は冷たく笑う政宗に怯えながら抱かれた




2010.10.10.

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