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花嫁の決断



「姉上‥‥」

「幸、そんな顔しないで。私は花嫁になるのですから」



奥州・米沢へ出立する日、雪は鎧を身に纏ってそう言った

"鎧は死に装束"

その言葉のように、雪の鎧は全てが白い

それは遠目から見れば、白無垢のようでもあった



「そのうち里帰りでもするから、すぐにまた会えるでしょう?」

「‥‥うん」



それは嘘だと互いに分かっていた

雪は花嫁とは名ばかりで、人質として伊達へ嫁ぐのだ

その証拠に安積家の当主を幸荻だと認めると手紙にはあった


交換条件、安積家の内乱の鎮圧と引き換えに安積家は伊達につく



「幸荻、国とはなんですか?」

「はい、人です」



「では、そなたはどうしたいですか?」

「はい、護りたいです」



その答えに満足げに雪は笑った


「沖嗣殿」

「はい」


「幸荻を宜しくお願い致します」

「っ、‥‥はい」



深く頭を下げた雪に、沖嗣が跪く



「どうか、どうか、御自愛なさいませ」

「そなたも」



ああこれで、奥州は平定される

父の死によってそれは決まっていたようなものだった

鹿ヶ城を離れ、一度だけ振り返る

二度と戻れはしないだろう


雪は幸荻と多くの家臣に見送られながら、故郷を後にした








安積領と伊達領の接する場所まで馬を進めれば、一軍が出迎えた

少数の雪の編隊はすぐに取り囲まれる

それを冷静に見詰め、雪が口を開いた



「わたくしは安積雪。知っての、狼藉なのでしょうね」



囲んだ男達は顔を隠し、旗印すら掲げていない

まだ、わからない輩が居たのか


雪は目を細めると刀を抜いた



「安積と伊達が懇意となればこの奥州は伊達のものとなる。それを甘んじて受けるは弟君の為でしょう」

「確かに」


「我々はそれを良しとはせぬ」

「‥‥愚か者!我が父が死した時よりこの奥州は伊達のもの!それすらわからぬか!?」



雪の覇気が男を圧すと、次々と周りの男が抜刀する

雪の編隊も全員が刀や槍を抜いた

このような事態も憂慮して、侍女は連れては来なかった

周りの者達も国境で返すつもりだったというのに



「安積家の猛将と呼ばれた貴女が、伊達にくだるとは」

「わたくしの望みは奥州ではありません」


「戯れ言を!ならば何故、伊達に嫁ぐ!?親を殺されながら何故っ」



―キンッ

辺りに金属がぶつかり合う高い音が響き、瞬く間に戦場となった

雪は地面に降りて馬を逃がすとそのまま目の前の敵を切り捨てる



「我が父は戦場(イクサバ)で死んだのです。それこそ武将たる者の誉れ!」

「なれど己の父を殺した男に嫁ぐなどは」


「この戦国の世に、誰がそんな事を言えたことか?伊達殿が望んだのです。だが」



―ガキンッ

男の刀を弾いて、逆に刀を喉元に突き付けた



「っ!?」

「この身に刻まれた傷を見て、気が変わるかも知れません」



ふわりと笑ったその顔にも、幾つかの傷痕があった

大きいが目立つような傷ではなく、今は運動による血流の増加により、より浮いて見えるのだろう

それは

白の甲冑によく映える


男が思わず見とれていると、何かに気づいたように雪が視線を横に向けた



「!来たようですね」

『伊達政宗殿にございます』


「本人が?」

『はい』



馬が更に近づく音を聞くと、影のように側に居た忍の女は姿を消した

周りも片付いたらしい

雪は目の端に伊達政宗を捉えると刀を収めた



2009.6.14.

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あきゅろす。
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