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めんこい姫君



なんと御可愛らしい

雪には到底着こなせない、鮮やかな桃色の着物が籠から覗いていた

それに見合った玉のような肌に、赤い唇、美しい黒髪に縁取られたその顔は良い意味で人形のようだった

愛姫

名は体を表していた

わずか齢十二歳の幼き姫である



「そなたが政宗殿の寄越した迎えか?」

「はい、雪に御座います」



戦支度とまではいかないものの、もしもの場合に備えて刀を挿して来た

それに合わせて雪は袴姿である



「ふん、本人でなくとも片倉殿が来ると思っていたが、女子が来るとは田村家も舐められたものじゃ」

「決してそのような事は‥‥、政宗様は愛姫様の御到着を心待ちにされておられます」



この日、政宗は城に残った

小十郎も政宗の説得の為に城に残った

そして雪が、愛姫の迎えを申し出たのだ



「まあいい。政宗殿が寄越したのならば腕は確かだろう。早く案内せい」

「(貴蝶)、‥‥では参りましょう」



愛姫の物言いが気に入らなかった貴蝶が一瞬殺気立つ

それを制して雪は行列を伊達の居城へと導いた


道中それとなく愛姫は雪に何度も質問を投げかけた

その大半が伊達の屋敷内のことで、やはり幼い愛姫のこと、不安があるのだと雪は思った



「慣れるまでは不便もおありでしょう。ですが政宗殿が如何様にも良くして下さいますよ?」

「そなた‥‥‥、政宗殿のお手つきか?」


「!、いえ、その、私は‥‥」



愛姫の思いもしない質問に焦る

だが同時に近づく馬の蹄の音にも気が付いた

隊列を止め、愛姫を制してその方向を見据えれば、すぐに貴蝶が報告に現れる



「山賊のようです。見たことのない顔ですので最近奥州に入ったのでしょう」

「貴蝶は愛姫様をお守りして。皆は半分に別れ、半分は愛姫様をお守りし、半分は私と共に山賊を討つ」


「私は逃げた方が良くはないか?」

「この先の道は荒れます。籠では追いつかれてしまうのです。この者が御身をお守り致しますので、暫しお待ちを」



雪は貴蝶を紹介して一礼すると愛姫の元を離れ、近づく山賊達に向き直った

スラリと長刀を抜き去る様は芝居がかったように美しく、愛姫は目を奪われた

続いて翻った抜き身にゾクリと背筋が粟立つ



雪が最初の一騎を長刀で落とすと、男達は囲むように回り始めた

厄介だ

考え無しに向かって来る相手ならばやり易いが、下手に連携をとられてはやりにくい



「来い」



雪が男達を挑発した

何人かが襲い掛かろうとした瞬間、雪の刀から冷気が放たれた



「玄冬素雪の一、飛雪(ヒセツ)」



見る間に男達が雪に包まれ、進行方向を見誤る

それを皆で討ち取れば残りは二人、視線を移してやればたじろいだ



「婆裟羅使いか‥‥、分が悪い」



呟いたかと思うと踵を返して逃げ去っていった

頭の切れる男が頭のようだったから、この奥州に残られたら厄介だろう

だが愛姫を連れた今、深追いは出来ない


雪は追跡を諦めると愛姫の元へ戻った



「お怪我は御座いませんか?」

「大事ない」



すっかり勢いを無くした様子の愛姫に城へ急ぐと告げれば黙って頷いた


ああ、怖がらせてしまったのだろう

刃物の類は近付けないようにと政宗殿にお伝えしなければ


雪はただ、愛姫を伊達家へ受け入れることだけを考え、先を急いだ




2010.7.22.

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あきゅろす。
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