青ざめた花の蜜
"許されるならば、祖国への永久(トワ)の愛と友好を"
我が娘ながら随分と堅苦しいことを言うものだ
嫁にいく娘を見送った後で、王は思わずそんなことを考えた
思えばセレナは不憫な娘だった
第一子として生まれながら、後に五年、男児が生まれぬ故に男として育てた
国を継ぐのが男でなければならない訳ではなかったが、女ということで侮られる事もある
何より妃は身体が弱く、何度も子を産める身体ではなかった
これ以上子は望めぬ、というのが男として育てた一番の理由だった
そうして過ごした十余年で、あれは聖騎士にまでなってしまった
ふと込み上げてきた感情に、狭斗(セト)王、ケイショウは瞑目する
「‥‥‥良き人生を」
この手を離れた娘に、慈愛神ナギよ、どうか祝福を
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王都を旅立って一週間、国境近くまで来たセレナたち花嫁の一行は今夜泊まる場所をこの川沿いの平地に決めた
この場所ならば明日の朝に国境を越えられる
すぐに兵士たちが天幕を張り、火を起こし始める
それを横目にしながら、セレナは自分に用意された天幕の中に入った
「セレナ、どうぞ」
「紅茶を淹れてくれたんですね、ありがとう御座います」
目が眩むほどの微笑を向けられて、リチェは顔を赤らめた
そうなのだ
この人はつい3ヶ月前まで男として育てられた為か、それともこの人のもともとの気質なのか、かなり男前でありかなりの美丈夫なのであった
「リチェ?」
「あ、ごめんなさい」
まだ慣れないこの関係も、国境を越えれば僅かな相違が命取りになる
リチェは一度気分を落ち着かせるように深呼吸すると、本題に入った
「私にセレナ様の代わりなんて務まるでしょうか?なんか不安になってきちゃった」
「危険性があるのは分かってる」
真剣な顔で切り返されて、リチェはまた顔が熱くなった
「それは、守ってくれるって分かってますからいいんですけどぉ‥‥」
リチェは八歳の頃からセレナに付いていた侍女だった
セレナが性別と身分を偽り騎士として修行を始めたときも、近くで世話をした
今回の結婚にしても、一緒に付いて行くと言って聞かなかった娘だった
「ああ、リチェは私が守る」
「はい‥(まあ、ある意味それも困るんですけど)」
と、リチェは心の中で嘆息する
セレナが嫁ぐ国は、辺境の小国にして古の戦闘種族竜族の治める地、深耶木(ミヤギ)
戦乱の世にあって小国ながら生き残った戦闘に長けた一族の国だ
それ故にその力を狙っている者も少なくはない
それに対する保険、というか同行するための言い訳に、リチェはセレナの身代わりを提案した
つまりは誰に狙われるか分からないから、王女を表には出すな、という事だ
だが先に言った通り、騎士に扮したセレナがセレナに扮したリチェを守ったのでは意味がないのだが
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