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闖 入






小十郎は深く思案しながら湯殿の戸を開いた

戸から奥まった場所に脱衣場があり、その更に奥に肝心の風呂がある


その脱衣場ではたと小十郎は動きを止めた



「なんだ、鬼か。竜には会えたか?どうした?」



そこにはユキが立っていた

長い髪をゆるく結い上げ、誰が用意したのか(多分姉上だ)薄い黄色の着物を着流していた

湯上がりのせいで上気した頬に、潤む瞳から目がはなせない

これは



「テメーの事は、俺に任された」

「そうか。ああ、そう言えば湯を使わせてもらった。山では川で水浴び程度だったから、な」



不意に伸ばされた手にユキはギョッとする

小十郎の左手は頬を撫で、右手は首筋に伝っていく



「逃げねぇのか」

「私の事は、お前に任されたのだろう?」



その言葉と同時に小十郎の唇がユキのそれを塞いだ

全身が粟立つ

壁に押し付けられ脚を割り入られると、小十郎の手がそのまま腰をつたってユキの急所を撫でた



「‥‥っ、やめろ」

「‥‥‥ちゃんと女だな」



口付けの間に胸と其処を確認され、ユキの頬や耳は真っ赤に染まっていた



「どういうつもりだ、鬼!」

「片倉小十郎だ。テメーは暫くうちで預かる」



解放されてユキは襟を正す

まあいい

胸を借りた礼だ


先を歩く小十郎の後に付いて歩きながら、ふと言っておかねばならない事を思い出す



「小十郎。私は此処に留まるつもりはないぞ」

「なら何処に行く?」


「何処に行くということはない。ただ、私は独りで居たいのだ」



その言葉に小十郎は振り返った

ユキも歩みを止める



「私は不死だ。長い時を生き続け、もはや人界に関わろうとは思わぬ」

「それでもテメーの存在は各方面に知られた。気付かなかったか?忍が居ただろう」







あの山奥に

残党を追ってか、小十郎を追ってか

その事実にユキは顔をしかめた


冗談ではない

自分の存在が知られ、しかもあの状況なら不死であることがバレていないにしろ、尋常ならざることだけは知られただろう

つまり独りになり他の国に狙われるか

それとも此処に留まり何らかの代償を払うか


どちらにしろユキにとっては面倒な事この上なかった



「条件を言え小十郎。それ次第で此処に留まる」

「こっちが条件付けていいのか?」


「?こちらが付けていいなら私はお前が欲しい」



ピシリ、小十郎が固まる

眉間の皺が一層深くなり、不機嫌そうに口のへの字が角度を増した(気がする)



「いや、その、お前が竜の物だって事は理解してるぞ?」

「‥‥そういう事じゃねえ」


「では説明する。私はずっと独りで居た。だから人肌が恋しい。此処に留まるなら、誰かの側に居たい」



その誰かを傷つけても、私自身が傷ついても

長く生きると傲慢になるのだな

自分の気持ちを押し付けてもまったくどうという事はない


例え拒絶されても、それなら違う条件を出すだけだ



「孤独には慣れねえか」

「否、孤独には、飽きた」



それがユキの本心だった


戦を繰り返す人界に飽き、逃げ込んだ先の孤独にも飽き

為すべきことも無いままに、とうとう此処まで来てしまった


片倉小十郎

私を見つけたのが運の尽きだ



「私に触れても構わない。お前の温もりを、私に感じさせてくれ」





2009.11.10.
【闖入】チンニュウ;断りもなく入り込むこと


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あきゅろす。
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